研究課題
薬物による腎障害は、一時的に腎機能を低下させるだけでなく、慢性的な腎機能低下につながることがある。また、薬剤による腎機能の低下は、治療に必要とする薬剤の選択肢を狭めるため、腎障害を事後に解消するような方策の開発が重要と考えられる。申請者はこれまでの研究から、抗がん薬であるシスプラチンが慢性腎臓病を惹起することを明らかにした。また、シスプラチンによる慢性的な腎機能低下は尿細管間質における線維芽細胞が主に関与することを示した。そこで本研究では、薬剤によって惹起された腎線維化の治療方法提示を最終目標とし、以下の2つの項目を具体的な目的とする。1. 薬剤性腎障害のモデル動物を対象に腎障害発症後における線維芽細胞の機能変化を詳細に解析する。2. 腎線維芽細胞を用いて治療薬の探索を試みる。 2018年度には、腎線維化に関連する遺伝子を抽出することを目的として、ヒト及び動物モデルにおける遺伝子発現情報を公開データベースより収集し、ヒト及び動物モデルに共通して線維化と関連する遺伝子を同定した。2019年度には、注目した遺伝子が薬物誘発性の線維化進展過程においても発現が変動するかどうかを検討した。その結果、注目した遺伝子は複数の動物モデルにおいて発現が亢進することを確認した。特に重要な点として、この遺伝子及びタンパク質の発現亢進は、腎線維化マーカー分子の発現亢進に先行して観察されることを見出した。また、この遺伝子は尿細管上皮細胞において発現することが確認されたことから、薬物誘発性の腎線維化において尿細管と線維芽細胞の相互作用が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
2019年度には、薬物が誘発する腎線維化の進展過程において、線維化分子マーカーの発現亢進に先行して起こる現象を記述できた。このことから、疾患に関する基本的な概念の提示に至ることができた。これらの成果は当初の計画通りと考えられるため、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
2020年度には、これまでの研究から示唆された尿細管上皮細胞と線維芽細胞の相互作用に関する具体的な分子機構解明を目指す。特に、マウス腎臓から作成する初代培養系を確立し、遺伝学的な手法を用いて詳細な解析を行う予定である。
次年度に使用額が生じたが、2019年度の使用額は予定に近いものであった。また、研究全体の結果が概ね計画通りに進んでいると考えるため、2020年度における使用も計画通り行うことができると考える。
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