研究課題
心拍再開後に起こる心肺蘇生後脳症が原因で、社会復帰率の低下および要介護による医療費の増大を引き起こしている。したがって、蘇生後脳症による経済的損失は計り知れず、治療薬の開発が喫緊の課題となっている。近年、申請者らは医療ビッグデータ解析により、臨床現場で使われている既存承認薬の新しい薬効を見出し、その薬を別の疾患の治療薬として開発するドラッグリポジショニング研究を実施している。そこで本研究では、医療ビッグデータを基盤とする新規的な手法を活用して、既存承認薬を蘇生後脳症治療薬として臨床応用することを目的としている。2019年度は大規模医療情報データベースを用いて心筋に対する虚血プレコンディショニング様作用が報告されている狭心症治療薬ニコランジルが、心肺蘇生後脳症に対する治療薬候補となる可能性を明らかにした。日本全国の医療施設から収集したレセプトデータに含まれる心肺停止症例2227例中に関して、ニコランジルの投与の有無で2群に分け、傾向スコアを用いて患者背景・既往歴などの因子を両群間で調整後生存退院率を比較したところ、ニコランジル投与群は生存退院に対する調整オッズ比が8.22と有意に高い値を示した。さらに、マウス海馬由来HT22神経細胞を用いて、心肺停止病態を想定した低酸素条件下における神経細胞死をWST-8 assayにて評価したところ、ニコランジルが低酸素下における神経細胞死を有意に抑制していることが示唆された。これらの研究成果は、今後さらなる高齢化が予測される日本はもちろん、世界中で増加が予測されている心肺停止患者の予後改善に繋がることが期待される。加えて、脳梗塞などの虚血性の脳神経障害に対して応用できる可能性もあるため社会的な波及効果が見込まれる。
2: おおむね順調に進展している
2018年度に治療薬候補として見出した抗けいれん薬チオペンタールに加え、2019年度でも心肺停止症例データベースおよび脳海馬由来神経細胞を用いた検討によって、狭心症治療薬であるニコランジルが、心肺停止病態を改善することを明らかにしたので、当初の計画以上に進展していると言える。
今後の研究においては、塩化カリウムによって作製した心肺停止モデルに、治療薬候補を投与し、心肺停止後の生命予後および神経学的予後に与える影響を評価する。心肺停止モデルにおいても有効性が認められた薬剤に関しては、NIHが提供している遺伝子発現データべース (GEO)を用いて薬剤によって変動する遺伝子を同定した後に、それらの遺伝子をKEGGパスウェイデータベースにマッピングすることで、作用機序を同定する予定である。
当初、参加予定であった学会が新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止になったため、その旅費を、次年度使用額として繰り越すこととなった。繰越額は2020年度に開催される別の学会参加に関する旅費に充てる予定である。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (12件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 4件、 招待講演 7件)
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