研究課題
心拍再開後に起こる心肺蘇生後脳症が原因で、社会復帰率の低下および要介護による医療費の増大を引き起こしている。したがって、蘇生後脳症による経済的損失は計り知れず、治療薬の開発が喫緊の課題となっている。近年、研究代表者らは医療ビッグデータ解析により、臨床現場で使われている既存承認薬の新しい薬効を見出し、その薬を別の疾患の治療薬として開発するドラッグリポジショニング研究を実施している。そこで本研究では、医療ビッグデータを基盤とする新規的な手法を活用して、既存承認薬を蘇生後脳症治療薬として臨床応用することを目的としている。本研究課題では、大規模医療情報データベースを用いて心筋に対する虚血プレコンディショニング様作用が報告されている狭心症治療薬ニコランジルが、心肺蘇生後脳症に対する治療薬候補となる可能性を明らかにした。日本全国の医療施設から収集したレセプトデータに含まれる心肺停止症例2227例中に関して、ニコランジルの投与の有無で2群に分け、傾向スコアを用いて患者背景・既往歴などの因子を両群間で調整後生存退院率を比較したところ、ニコランジル投与群は生存退院に対する調整オッズ比が8.22と有意に高い値を示した。さらに、マウス海馬由来HT22神経細胞を用いて、心肺停止病態を想定した低酸素条件下における神経細胞死をWST-8 assayにて評価したところ、ニコランジルが低酸素下における神経細胞死を有意に抑制していることが示唆された。これらの研究成果は、今後さらなる高齢化が予測される日本はもちろん、世界中で増加が予測されている心肺停止患者の予後改善に繋がることが期待される。加えて、脳梗塞などの虚血性の脳神経障害に対して応用できる可能性もあるため社会的な波及効果が見込まれる。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件)
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