生理学的薬物速度論(PBPK)モデルに基づく薬物相互作用解析において、適切なモデル及びパラメータの設定が重要である。本研究では、in vitro試験で得られた代謝阻害パラメータをモデル解析に使用することにより、臨床での薬物相互作用を定量的に再現できるか否かについて検討を行った。 バルプロ酸とラモトリギンの相互作用について、ラモトリギンのグルクロン酸抱合代謝に対するバルプロ酸の阻害定数をPBPKモデルに組み込み解析を実施した結果、バルプロ酸併用による血中ラモトリギン濃度の上昇はほとんど認められず、臨床での相互作用を再現するには阻害定数をin vitro試験で得られた値の数10分の1に設定する必要があった。すなわち、シトクロムP450と同様にグルクロン酸転移酵素の阻害においてもin vivoとin vitroの阻害定数に乖離がある可能性が考えられた。 また、ボノプラザンとプログアニルの相互作用について、ヒト肝ミクロソームを用いて代謝阻害試験を実施した結果、プログアニルの代謝はボノプラザンの濃度及び酵素とのプレインキュベーション時間に依存して阻害された。得られた阻害パラメータをPBPKモデルに組み込みボノプラザン併用時のプログアニル及びシクログアニル(活性代謝物)の濃度推移をシミュレートした結果、相互作用は過小評価され、臨床での濃度推移を再現するには見かけの解離定数をin vitro測定値の9分の1程度にする必要があった。過小評価の原因として、ボノプラザンの代謝物による阻害の可能性について検討した結果、in vitro試験において4種類の代謝物によるプログアニル代謝阻害作用は弱く、それらの血中濃度を考慮すると臨床での相互作用への寄与は小さいと考えらえた。今後、in vitro試験で得られる阻害パラメータをin vivoにスケールアップする手法について、引き続き検討が必要である。
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