研究課題/領域番号 |
18K06802
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研究機関 | 鈴鹿医療科学大学 |
研究代表者 |
大井 一弥 鈴鹿医療科学大学, 薬学部, 教授 (40406369)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 乾燥皮膚 / 皮膚バリア機能 / 関節炎 / 非ステロイド性抗炎症薬 / TSLP |
研究実績の概要 |
皮膚は全身を覆い、角層が水分蒸散を調節しながら複雑な生理機構を保持している人体最大の臓器である。そのために皮膚バリア機能の低下は、皮膚免疫機構の変化に伴う乾燥皮膚など皮膚の状態の悪化を招くことになる。 今回の研究は、本邦で顕著な高齢化の進展により、患者数が増加している関節リウマチ(関節炎)に着目している。関節炎患者が乾燥皮膚を呈するという報告は、症例報告が散見される程度であるため、前年度より基礎研究により機構解明を試みている。 本研究は、関節部位で誘発される炎症性マーカーが遠隔の皮膚に作用し、皮膚生理機能を変化させ、乾燥皮膚発現について探索する研究である。本研究による成果は、二次的な疾病の予防に繋がるだけでなく、乾燥皮膚発現は臓器炎症に由来するという概念が確立されるものと考えられる。つまり、臓器間におけるクロストークの重要性が明らかとなり、医薬品開発にも期待が拓く。本研究は、関節から遠隔にある皮膚との連関性を解明するとともに、関節炎による皮膚搔痒等で苦しむ患者の苦痛軽減に繋がる研究になると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで我々は、免疫担当細胞を刺激するThymic stromal lymphopoietin (TSLP) が関節炎モデルマウスにおける乾燥皮膚発現に関わることを明らかにしてきた。2019年度は、TSLPから刺激を受けるマスト細胞以外の免疫担当細胞として樹状細胞に着目し、樹状細胞の刺激により分化するTh2細胞およびTh17細胞が関節炎モデルマウスにおける乾燥皮膚の発現に与える影響を検討した。Th2阻害剤およびTh17阻害剤を投与した際、関節炎モデルマウスにおける乾燥皮膚が改善された。Th2細胞によって引き起こされる乾燥皮膚は、IL-6およびTNF-αなどのサイトカインの増加により起こるが、Th17細胞は、IL-17の分泌増加およびマスト細胞の活性化を介して起こすことが考えられた。このことから、樹状細胞により分化が促進されるヘルパーT細胞、Th2細胞およびTh17細胞それぞれに異なるメカニズムで乾燥皮膚の発現を誘導することが明らかとなった。 また、ストレスは皮膚状態の悪化や関節炎の発症に関わるとされている。グルココルチコイド受容体遮断薬投与により、関節炎モデルマウスにおける乾燥皮膚にはストレスが関与している可能性を示した。水浸ストレスを負荷した関節炎モデルマウスでは、負荷していない関節炎マウスに比して、TEWLの上昇およびコラーゲンの減少が見られ、乾燥皮膚が顕著になり、血中のIL-6、コルチコステロンの増加が認められた。さらに、ストレス負荷関節炎モデルマウスでは、負荷していない関節炎モデルマウスに比べて、胸腺におけるTreg細胞が減少し、Th2細胞が増加した。ストレス負荷により関節炎マウスにおける乾燥皮膚が増悪していた結果から、関節炎患者は精神的および肉体的にストレスの影響を受けやすいと考えられるため、従来の薬物治療のみならず、ストレスを軽減する対処も必要になると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、関節炎の痛みおよび炎症を軽減する目的として、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) を使用する。先行研究においてインドメタシンを使用しているがCOX-1選択性が高いため、胃粘膜障害が出現することから、現在臨床ではほとんど使用されなくなり、NSAIDsによる関節炎治療ではCOX-2選択性が高い薬剤が使用される傾向にある。そのため今後の研究では、COX-2を選択的に阻害し、ブラジキニンの抑制効果を有するザルトプロフェンを使用し、関節炎の症状を抑えることとする。次いで、グルココルチコイドや活性酸素、TSLP、マスト細胞などの関わりとの差異について明らかにする。NSAIDsによる皮膚生理機能への影響を見て、今後の可能性を拓く研究展開としたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品の見積額と購入額に若干の差が生じたため
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