研究課題/領域番号 |
18K06804
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
栄田 敏之 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (00304098)
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研究分担者 |
西口 工司 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (80379437)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | SGLT2 阻害剤 / 重篤な皮膚障害 / 皮膚組織移行性 / ipragliflozin / ヒト角化細胞・繊維芽細胞3 次元培養系 / STAT3 |
研究実績の概要 |
Wistar 系雄性ラットを用いてSGLT2 阻害剤5 種類の体内動態の比較を行った。重篤な皮膚が起こるとされるipragliflozin、起こり難いとされるdapagliflozin、tofogliflozin、luseogliflozin、canagliflozinを経口投与後、血液、皮膚、脳、心臓、小腸、腎臓を採取し、組織または臓器中濃度の血漿中濃度に対する比で比較を行った。その結果、ipragliflozinの皮膚組織中/血漿中濃度比(±SD)は、投与1、4、8、24時間後で、各々、0.45±0.20、0.92±0.18、2.15±2.55、5.82±3.66であり、経時的に上昇することが示された。しかしながら、その他のSGLT2 阻害剤では同様の現象は認められなかった。以上のことから、ipragliflozinが皮膚組織に存在する何らかのタンパク質と相互作用を起こすことが示唆された。 ヒト角化細胞・繊維芽細胞から構築された3 次元培養系を用いて、ipragliflozin、dapagliflozin、tofogliflozinを皮膚組織間質液中濃度相当濃度で添加、120時間後にマイクロアレイ解析を行った。生理食塩水添加120時間後をコントロールとした。その結果、コントロールと比べて、ipragliflozin曝露後におけるmRNA発現パターンは明らかに異なった。一方、dapagliflozin、tofogliflozin曝露後におけるmRNA発現パターンはコントロールと同様であった。なお、N=3で繰り返したが、再現性は確認できた。以上の結果を踏まえ、pathway解析を行ったところ、ipragliflozinによるchemokine pathwayの変化、特に、STAT3 mRNAの発現量増大が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度に予定した1)SGLT2 阻害剤のラット皮膚組織滞留性の検討、2)in vitro 細胞培養系における検討、のほとんどが終了した。1)の成果の一部を既に公表しており(Sakaeda et al., Int.J.Med.Sci., 15, 937-43, 2018)、現在、続報を投稿準備中である。また、SGLT2 阻害剤の皮膚組織間質液中濃度推移の評価も終了しており、SGLT2 阻害剤全てで皮膚組織中濃度より低いことを明らかにした。皮膚組織間質液中濃度推移の結果も投稿準備中である。なお、2)については、マイクロアレイ解析が本質的には予備的検討であることを鑑み、シグナル伝達系の詳細な解析を行う予定である。 平成31年度に予定した3)重篤な皮膚障害を引き起こす可能性の高い薬物リストの作成、4)ラット皮膚組織滞留性の検討、5)in vitro 細胞培養系における検討、のうち、3)について、(独)医薬品医療機器総合機構が提供する医薬品副作用データベースJADER から最新の情報を入手し、データマイニングを開始した。これによりリストアップされた薬物群について、4)、5)の検討を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に予定した1)SGLT2 阻害剤のラット皮膚組織滞留性の検討については、薬物動態学的モデルによる回帰解析を行い、ipragliflozin特有の皮膚組織移行動態が皮膚組織中における相互作用で説明できるか否か検証する。2)in vitro 細胞培養系における検討については、遺伝子発現量解析、免疫染色等を行い、STAT3 mRNAあるいはSTAT3の発現量増大を確認する。 平成31年度に予定した3)重篤な皮膚障害を引き起こす可能性の高い薬物リストの作成については、JADERとともに、FDAが提供するFAERSデータベースも利用し、日本人特有のものと人種を問わないものを識別する。4)ラット皮膚組織滞留性の検討、5)in vitro 細胞培養系における検討、については、計画書記載の通り、3)の結果に従い、1)、2)と同じ検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究計画は本邦で使用可能なSGLT2 阻害剤6 種類について立案したが、そのうちempagliflozinについては、血漿中濃度、および皮膚、脳、心臓、小腸、腎臓中における濃度の定量法の確立に時間を要し、Wistar 系雄性ラットを用いた体内動態の検討を行うことができなかった。このために次年度使用額が生じた。引き続き、定量法の確立とラット体内動態の検討を行う予定である。
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