平成30、31年度において、SGLT2阻害剤5種類のラット体内動態の比較を行い、さらに、その結果の数理学的な解析を行い、重篤な皮膚障害が起こるとされるipragliflozinが皮膚組織中に滞留しやすいこと、ipragliflozinが皮膚組織に存在する何らかの物質と相互作用を起こす可能性が高いこと、これらの現象はipragliflozin以外のSGLT2阻害剤では認められないこと、を明らかにした。続いて、ヒト角化細胞・繊維芽細胞-3 次元培養系を用いて、ipragliflozin添加に伴うSTAT3 mRNAの発現量増大を確認した。しかしながら、角化細胞株の2次元培養系では発現量増大は確認できなかった。 令和2年度においては、まず、ipragliflozinの皮膚組織中における滞留の原因を知る目的で、角化細胞株の2次元培養系を用いて、常法に従い、細胞取り込み実験を行った。その結果、ipragliflozinの定常状態における細胞内取り込み量がその他のSGLT2阻害剤と比べて4倍程度高いこと、ipragliflozinの細胞内取り込み過程は、濃度依存的、かつ温度依存的であること(取り込みに何らかの輸送担体が関与していること)、その輸送担体はバリノマイシン感受性であること、を明らかにした。続いて、ヒト角化細胞・繊維芽細胞-3 次元培養系を用いてipragliflozin添加に伴うサイトカインの分泌を評価した。その結果、いくつかサイトカインの分泌を確認できた。ただし、この現象は角化細胞のみでは確認できなかった。以上のことから、ipragliflozinによる重篤な皮膚障害は、繊維芽細胞を介して起こり、角化細胞への濃縮的な移行が少なからず関与するものと推察した。
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