研究課題/領域番号 |
18K06806
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
川瀬 篤史 近畿大学, 薬学部, 准教授 (80411578)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | がん細胞 / トランスポーター / 裏打ちタンパク質 / ERMタンパク質 / radixin |
研究実績の概要 |
これまで肝臓において検討を進めてきた,トランスポーター周辺タンパク質の機能低下によるトランスポーター活性の低下についてがん細胞株での検討を行った。がん細胞ではトランスポーターの発現および機能亢進が知られており,それが抗がん薬多剤耐性の原因のひとつとされる。抗がん薬は複数の排出トランスポーターの基質となり,がん細胞内から細胞外へと排出されるため,期待される細胞内濃度が得られない場合がある。本研究では,がん細胞での排出トランスポーター活性の調節を行うための新規ターゲットとしてERMタンパク質 (ezrin/radixin/moesin)を標的とした検討を行った。ヒト肝がん由来細胞株HepG2細胞を用い,ERMタンパク質に対するsiRNAを用いノックダウン時のトランスポーター活性をトランスポーターの蛍光基質の細胞内蓄積量から見積もった。その結果,radixinノックダウン細胞においてMRP活性が有意に低下することが明らかになった。これは複数の臓器由来のがん細胞で共通してみられたことより,がん細胞においてradixinノックダウンはMRP活性低下のターゲットタンパク質となる可能性が示された。なお,P-gpに対する影響もわずかではあるがみられ,radixinノックダウンによりP-gp活性も低下傾向を示すことが明らかとなった。このときのトランスポーター発現量を測定したところ,細胞質タンパク質ではほとんど変化しなかったものの,膜タンパクではMRP2の発現量の有意な低下がみられた。以上のことより,がん細胞におけるradixinノックダウンはMRP2の膜局在およびMRP活性の低下を引き起こすことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していたin vitroにおけるERMタンパク質ノックダウンのトランスポーター活性について検討を行い,次年度につながる一定の成果が得られたため,おおむね順調に進展しているを選択した。具体的には,これまで肝臓で検討を進めていたERMタンパク質とトランスポーター活性の関連を3種のがん細胞での評価につなげることができた。また,LC-MS/MSを用いたトランスポーター発現量の測定についても予定どおり実施することができた。また,トランスポーターの蛍光基質を用いたトランスポーター活性評価も計画どおり実施した。
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今後の研究の推進方策 |
ERMタンパク質のうち,radixinノックダウンによりがん細胞でのMRP活性を有意に低下させた。トランスポーター周辺タンパク質として,他の候補であるPIP5KおよびEBP50について今後検討を行う予定である。こられの標的のうち,PIP5Kはがん細胞で上昇している可能性があり,radixinに比べがん細胞選択的な効果が期待される。これらの検討より得られた結果に基づき,複数のトランスポーター周辺タンパク質を同時にノックダウンしたときのトランスポーター活性に対する影響についても検討を行う予定である。なお,これらの検討はこれまでの検討結果より,ヒト肝がん由来細胞HepG2細胞を用い検討し,必要に応じて他の臓器由来のがん細胞を用いた検討を行う予定である。さらに,in vitroで抗がん作用に与える影響を検証した後に,in vivoにおいても抗がん薬デリバリー効率に与える影響について評価する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ERMタンパク質のノックダウンに用いたsiRNAおよび細胞材料が当初予定を下回り,次年度使用額が生じた。それらのターゲットについて次年度引き続き検討を行うため,ノックダウンするためのsiRNAおよび細胞材料費として次年度計画している実験遂行のために使用する。
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