本研究課題は,がん細胞の抗がん薬多剤耐性の原因のひとつである排出トランスポーターの発現および機能亢進をトランスポーター周辺タンパク質を標的として克服する試みである。これまでに単独のトランスポーターの阻害剤を用いた多剤耐性の克服については検討されてきたものの,いずれも十分な効果が得られておらず,効果的な化学療法を行ううえで複数の排出トランスポーター機能を同時に低下させるアプローチが期待されている。そこで,本研究課題ではこれまでに肝臓およびがん細胞株でトランスポーター周辺タンパク質とトランスポーター活性の関連について検討したところ,トランスポーター周辺タンパク質のひとつであるradixinおよびEBP50が排出トランスポーターのうち特にMRPの膜局在および機能発現に関与していることが明らかになった。そこで,MRP基質となる抗がん薬であるメトトレキサートを用い抗がん作用に対するトランスポーター周辺タンパク質ノックダウンの影響を評価したところ,radixinまたはEBP50ノックダウン時にメトトレキサートの細胞内蓄積および細胞増殖抑制作用が上昇することが示された。また,radixinの活性化に関わる因子を調節するキナーゼPIP5Kについても同様に検討を行ったところ,MRPおよびP-gpの輸送活性を調節することが可能であることが明らかになった。これらのことより,radixinおよびEBP50は排出トランスポーター機能を調節するターゲットタンパク質となり得ることが明らかとなり,抗がん薬の作用増強に利用できることが考えられた。
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