研究課題/領域番号 |
18K06811
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
井上 貴雄 国立医薬品食品衛生研究所, 遺伝子医薬部, 室長 (50361605)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 核酸医薬品 |
研究実績の概要 |
近年、アンチセンスやsiRNAに代表される核酸医薬品の開発が進展しており、治療法のない遺伝性疾患や難治性疾患に対する次世代医薬品として注目を集めている。現状では、アンチセンス医薬を中心に8品目の核酸医薬品が上市されているが、その潜在的な課題として細胞内への送達効率が低い点が指摘されている。この課題に対して、オリゴ核酸を構成する核酸の化学修飾、オリゴ核酸の末端の修飾(脂質、糖などの付加)、送達キャリアの活用など、膜あるいは膜タンパク質との親和性を高める試みが行われているが、実用化の観点から更なる技術革新が望まれている。 我々はこれまでGFP mRNAを効率よく分解するGapmer型アンチセンスを核酸医薬品のモデルとして、その細胞内取り込み/細胞内動態に関与する遺伝子を「GFP発現細胞に対してGFP RNAを分解するアンチセンスを添加し、GFP蛍光をモニターするバイオアッセイ系」により探索してきた。本研究ではこの系を用いて、引き続き全ヒト遺伝子を対象としたRNAiスクリーニングならびに候補遺伝子の絞り込みを行う。さらに、候補遺伝子の遺伝子破壊細胞株の作製ならびにその性状解析を行う。 本年度は上述のヒト全遺伝子を対象とした網羅的RNAiスクリーニングについて、昨年度使用したアンチセンスとは塩基配列ならびに鎖長のアンチセンスを用いて候補分子の絞り込みを行い、アンチセンスの配列によらず共通に機能すると考えられる候補分子群を特定することに成功した。これらの分子のうち、3種について遺伝子破壊株を樹立し、その性状解析を行った。また、このうち1種の遺伝子破壊株に対して、異なる複数の配列のRNA分解型アンチセンスを導入試薬を用いない Free uptake 法により作用させたところ、いずれのアンチセンスを用いた場合においても標的 RNA の分解活性の減弱が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は上述の通り、昨年度実施したヒト全遺伝子を対象とした網羅的RNAiスクリーニングによって絞り込んだ候補分子に対して、更に異なる塩基配列のアンチセンスを用いた候補分子の絞り込みを行い、アンチセンスの配列によらず共通に機能すると考えられる候補分子群を特定することに成功した。この候補分子群のより選定した3種の候補遺伝子の遺伝子破壊株の作製に成功し、そのうち1種に複数種類のRNA分解型アンチセンスを導入試薬を用いない Free uptake 法により作用させたところ、全てのアンチセンスにおいて標的 RNA の分解活性の減弱が確認された。この結果より、この遺伝子が、配列に依存せず、アンチセンスの取り込み・輸送に関与していることが示唆された。以上より、当初の計画以上に順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、その他の候補遺伝子についても、アンチセンスの標的 RNA の分解活性への効果の検証を行う。更に、当該遺伝子の作用点及び基質特異性の特定を行う。当該分子がアンチセンスの細胞内取り込みや細胞内輸送におけるどのステップで機能をするかを明らかにする。具体的には、1)蛍光標識アンチセンスによる細胞内動態の観察を行う。2)リポフェクトアミン、エレクトロポレーション等で導入したアンチセンスが機能するか、3)スプライシング制御型アンチセンスなど他の作用機序のアンチセンスが機能するか、4)1本鎖のアンチセンスのみならず、2本鎖の核酸医薬品(siRNA)が機能するか、等を解析する。また、当該分子を過剰発現させることにより、Gapmer型アンチセンスの作用を増強するかについても検討する。これにより、核酸医薬品の細胞内送達の律速となるKey moleculeを同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の計画していた検証事項は、予定していた研究費の最小限の範囲内で実施可能であったことから、次年度使用額が生じた。繰り越し分も含めた次年度使用額については、2019年度に実施する「蛍光標識アンチセンスを用いた細胞内動態の観察」において実施する蛍光標識オリゴ等の試薬類等に使用する。
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