研究課題
研究代表者は平成30年度に以下の研究成果を得た。1.研究代表者が見出した新規繊毛関連分子 Hoatzin の機能解析を行った。野生型およびホモ変異型のマウス精巣抽出物に抗 HOATZ 抗体を加え、得られた免疫沈降産物を LC-MS 解析することで、HOATZ の結合分子と予想される87個の分子を同定した。この中で検出頻度が高く、かつ運動繊毛との関連が報告されている分子として DLEC1 および ENO4 を見出した。その後種々の解析を行った結果、HOATZ が ENO4 を運動繊毛・鞭毛に運ぶための分子シャペロンとして機能していることが推定された。2.HOATZ 結合分子である ENO4 の翻訳後修飾が組織により異なる可能性を見出した。気道上皮の運動繊毛は Hoatz 遺伝子欠損に伴う顕著な異常を認めないが、この知見は繊毛の構造的・機能的多様性の分子機構解明に向けた端緒となる可能性がある。3.Hoatz ホモ変異体の雌マウスに異常死が多いことを見出した。特に分娩時に死に至る頻度が高い。これは現在不明な点が多い女性生殖器における繊毛の役割に関して、新たな視点を提供する知見であると考えられる。4.研究代表者がトランスクリプトーム解析に基づき注目した繊毛関連分子 Cfap70 の機能解析を行った。初代培養上衣細胞において Cfap70 をノックダウンしたところ、繊毛の運動機能が低下することを見出した。また種々の CFAP70 断片を発現させその繊毛局在性を検討することで、この分子のN末端領域が繊毛局在性に重要であることを見出した。同様の結果がクラミドモナスの Cfap70 ホモログである fap70 に関しても得られた。さらに繊毛内で CFAP70 と結合していると予想される幾つかの分子をクローニングして分子間相互作用を検討し、有力な候補分子を絞り込んだ。
2: おおむね順調に進展している
1.Hoatzin の機能解析を目的として構造生物学的な方法と生化学的な方法を検討したところ、後者の方法によって有益な情報が得られ、研究は大きく進展した。具体的には抗体の簡便なアフィニティ精製法や低バックグラウンドの免疫沈降法などを周囲からの助言および情報を元に導入することで質の高いデータを得られるようになった。ここから分かってきたことは HOATZ が運動繊毛・鞭毛内部の ATP 代謝に関わっているということで、これは構造生物学的手法では知りえない情報であった。2.一方、初代培養上衣細胞の繊毛のクライオ電子線トモグラフィー(CET)解析に関しては、以前確立した条件で調製した繊毛試料は光学顕微鏡では破損を認めなかったが、電子顕微鏡で観察すると軸糸構造の崩れが顕著で、CET 解析には堪えないことが明らかとなった。繊毛単離時に細胞を界面活性剤処理する時間として15分を要することが原因と考えられ、この問題を解決すべく様々な条件で繊毛の単離を試みたが、解析に耐えうる試料を調製することは叶わなかった。
計画書に記載した通り、昨年度までに得た結果をさらに発展させるために以下の解析を行う。1.HOATZ と ENO4 の分子間相互作用の様式を詳細に解析する。具体的には、種々の断片を用いた免疫沈降実験による結合領域の絞り込み、HOATZ-ENO4 複合体の大量発現・精製とクライオ電子線トモグラフィー解析、両者の結合定数の測定などを試みる。2.ENO4 の翻訳後修飾に HOATZ がどのように関与しているかを明らかにする。これまでの知見に基づくと、ENO4 のユビキチン化および分解を HOATZ が抑制していると考えられる。293細胞を用いた系で ENO4 のユビキチン化およびタンパク質分解の速度を測定し、HOATZ 存在下でこれらがどのように変化するかを検討する。3.HOATZ 欠損上衣細胞の運動繊毛が ATP 代謝低下ストレスに対して脆弱になっているかどうかを検討する。培養細胞の培地に加える栄養添加物を減らしたり、低濃度の ATP 代謝阻害剤を加えたりして一定時間細胞にストレスを加えたのち、固定し免疫染色を行って繊毛の形態異常を解析する。
試薬を当初の予定より安く購入することができたため。消耗品の購入に使用する計画である。
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