研究代表者は2020年度に以下の研究成果を得た。 1.Hoatz変異型マウス由来の初代培養上衣細胞にHOATZ-FLAG発現レンチウイルスを感染させたところ、繊毛打頻度が野生型と同様のレベルに回復した。またその時のHOATZ-FLAGの細胞内局在を免疫染色法で検討したところ運動繊毛内部にシグナルを認めた。 2.天然のHoatzプロモーターによる調節のもとでHOATZ-FLAGを発現する組換えBACクローンを作出した。この組換えBACクローンをマウス受精卵に導入してノックインマウスの作出を試みたが産仔は得られなかった。 3.HOATZタンパク質の立体構造解明を目指し、マウスHOATZのC末断片を大量発現・精製した。タンパク質結晶化条件検索装置を用いて約200種類の溶媒と2種類の温度、2種類のタンパク質濃度の合計800条件を検討したが、いずれの条件でも目的の結晶を得ることはできなかった。CDスペクトル測定に基づく二次構造解析を行ったところ、αヘリックス19%、βシート23%、βターン0%、ランダム58%という結果を得た。 4.初代培養上衣細胞(野生型、Hoatz変異型)のRNA-seq解析を行い遺伝子型による違いを比較検討したところ、変異細胞が組織に混在するミクログリアを活性化していることを示唆する知見を得た。またこれら培養細胞のconditioned mediumに含まれるタンパク質を比較したところ、変異細胞においてリポプロテイン関連分子の分泌亢進が起こっていることを認めた。 5.マウスの多繊毛上皮細胞を透過型電子顕微鏡で観察したところ、脳室上衣細胞、気管繊毛上皮細胞、卵管繊毛上皮細胞のいずれにおいても複数の軸糸を含む突起構造を発見した。この突起は未成熟な上皮においてのみ観察され、成熟した上皮では観察されなかったことから、多繊毛形成過程における中間体と考えられた。
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