令和4年度は以下の2つの研究を行った。 研究1 EMT現象を用いた直接転換法の解析:EMT発生因子であるTGFβ添加によるEMTでの神経堤細胞への直接転換の検討を引き続き行った。前年度までの実験では、乳腺上皮細胞にTGFβを添加してEMTを起こした後、神経堤細胞発生のマスター転写因子SOX10を発現しても、転写因子によるEMT発生のときと同様にP75陽性細胞が発生することを見出した。今回このP75陽性細胞をフローサイトメーターで単離して神経堤細胞分化条件で培養すると、TuJ-1陽性神経細胞やGFAP陽性グリア細胞に分化することが観察された。これにより、TGFβ添加によるEMTでも神経堤細胞様の細胞にダイレクトリプログラミングできることがわかった。また、昨年度から行っているイヌ腎上皮細胞の直接転換研究でも、EMT発生と神経堤細胞マスター転写因子SOX10の発現によって神経堤細胞へ直接転換できることがわかり、「EMT現象が細胞に柔軟性を付与している」とした研究当初の仮説を強力に支持する結果が得られた。 一方、EMT発生と色素細胞発生のマスター転写因子の発現による乳腺上皮細胞の色素細胞への直接転換を試みてきたが、今年度は角化細胞を同様の方法で色素細胞への直接転換を試みた。角化細胞にEMT関連転写因子と色素細胞発生のマスター転写因子を発現させ9日間培養すると、細胞の形態が樹状に変わり、この細胞には色素細胞マーカー遺伝子Trp-1、Trp-2、Tyrosinaseが発現していることがRT-PCRにより確認でき、色素細胞に転換していることが示唆された。 研究2 EMT現象を促進する転写因子の新しい組み合わせの探索:前年度に開発したEMT評価方法を用いてEMT促進する転写因子の探索、組み合わせの検討を行ったが、直接転換を劇的に促進する転写因子や転写因子の組み合わせは見つからなかった。
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