研究課題/領域番号 |
18K06829
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大崎 雄樹 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (00378027)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脂肪滴 / 肝細胞 / ホスファチジルコリン / 中性脂質 / 核内構造体 |
研究実績の概要 |
脂肪滴は中性脂質をリン脂質一重膜が覆う構造であり、小胞体膜から形成される細胞質オルガネラと考えられて来たが、我々は肝由来細胞の核内では脂肪滴が核膜陥入構造と近接し、タンパク質修飾や遺伝子発現制御に関与するPML小体と複合体を形成して存在することを以前に報告した。本研究では核内脂肪滴の形成機序と機能をより詳細に解明することを目的とする。2018年度までの研究成果として、肝癌由来細胞において核内脂肪滴は小胞体内腔で形成されたリポプロテイン前駆体に由来すること、ホスファチジルコリン (PC) 新規合成経路の律速酵素CCT alphaが核内脂肪滴に集積し活性化されることにより、小胞体ストレスが軽減されることなどを見出し、報告した。 2019年度は、核膜陥入構造と核内脂肪滴の形成に関与し得る分子をさらに検索した結果、すでに小胞体および核膜の形態変化に関与すると知られていた候補分子Tを同定した。また、すでに細胞質での脂肪滴融合に関与すると知られていたCidebが、形成後の核内脂肪滴の融合にも関与し得ることを同定した。同分子の発現抑制により核内脂肪滴の融合が遅延し、数が増加すること、さらにCCTalpha陽性の核内脂肪滴を保持する細胞の増加およびPC合成亢進が起こることを見出した。一方、核内脂肪滴-PML複合体上には活性化型に修飾を受けた転写因子の一部が集積することを見出した。これらの結果は海外学術誌への論文発表に向けて準備中である。他方、脂肪滴がコレステロールエステル (CE) 優位になると、CEが液晶化し、脂肪滴表層の構造にも影響し得ることを試験管内、細胞内実験、生物物理学的解析から見出し、脂肪滴のコア脂質組成が、核内を含めた脂肪滴表層分子を制御し得る重要な因子であることを報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究計画における以下の到達目標について、進捗状況を述べる。 (A) 核内脂肪滴の核膜陥入構造に依存した形成機構の解明:核膜、小胞体膜の変形、小胞構造形成に関与すると報告のある複数の分子について、肝由来細胞において発現量操作を行ったところ、核膜陥入構造および核内脂肪滴形成に有意に影響を及ぼす候補分子Tが同定された。候補分子Tの発現量抑制による効果はPML-IIの二重発現抑制により打ち消されたことから、候補分子T はPML-IIの下流で、核膜陥入と核内脂肪滴形成を制御することが示唆された。一方、脂肪滴の融合に関与する分子Cide familyのうち、Cidebは核内脂肪滴に局在し、発現抑制により脂肪滴融合が遅延することをFRAP assayにより確認した。 (B) 核内脂肪滴のPC合成活性とERストレス応答への影響:Cideb発現抑制による核内脂肪滴増加に相関して、核内脂肪滴周囲へのCCT alphaの集積とPC合成活性亢進が認められたことから、従来判明していたperilipin-3の発現抑制による仕組みに限らず、核内脂肪滴周囲へのCCT alphaの集積が、同酵素活性化と細胞のPC合成活性を正に制御していることが改めて判明した。一方、脂肪滴を構成するCEの比率がトリアシルグリセロール (TAG)に対して一定以上高くなるとコア脂質が液晶化すること、脂肪滴の中性脂質組成変化が表層の構造にも影響し得ることを報告した。 (C) 核内脂肪滴の遺伝子発現調節への関与の検証:核内脂肪滴-PML複合体に局在することが判明している転写調節因子候補Pが、同複合体上でリン酸化され活性化されることが示唆された。一方、核内脂肪滴局在分子の網羅的解析は、精度の高いプローブ作成に難航しており進捗が遅れている。第二案として核画分からの脂肪滴精製/分子検索を進める。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画における以下の到達目標について、今後の進捗方策を述べる。 (A) リポプロテイン合成能を持たない非肝由来細胞でも、核内脂肪滴は少量ながら形成されることが判明しており、非肝由来細胞では肝由来細胞とは異なる核内脂肪滴形成機序の存在が強く示唆される。肝由来細胞において核膜陥入構造および核内脂肪滴形成に関与する分子候補を非肝由来細胞において発現量操作し、影響を比較することで、新規の核内脂肪滴形成機序を探索する。 (B) Perilipin-3、Cideb発現抑制を介した核内脂肪滴周囲でのCCT alphaの活性化とPC合成活性亢進作用が、非肝由来細胞においても普遍的に見られるのかどうか調べる。また核内脂肪滴を介したPC合成亢進の、小胞体ストレス、リポプロテイン分泌(肝由来細胞のみ)、細胞生存などへの影響を短期・長期的に評価する。また、中性脂質の組成比を変化させた際の脂肪滴表層の脂質代謝に関与する分子局在の違いを、形態学的、生化学的に探索する。 (C) 核内脂肪滴の遺伝子発現調節への関与の検証:核内脂肪滴局在分子の網羅的解析を、核画分からの脂肪滴精製法により進める。また現在までに核内脂肪滴局在が判明している転写調節因子については、脂肪滴局在のためにPMLとのSUMO化を介した結合が必要か否か、他の結合介在分子の可能性検索、結合ドメインのアミノ酸配列同定などを行う。さらにFISH法、レポータージーンアッセイ、定量PCRなどにより、予想標的遺伝子の核内脂肪滴多寡による発現量変動を解析し、転写因子が脂肪滴周囲で機能しているかを調べる
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