中性脂質をリン脂質一重膜が覆う構造である脂肪滴は、通常小胞体膜から形成される細胞質オルガネラであるが、我々は肝由来細胞の核内では脂肪滴が核膜陥入構造と近接し、タンパク質修飾や遺伝子発現制御に関与するPML小体と複合体を形成して存在することを以前に報告した。本研究では核内脂肪滴の形成機序と機能をより詳細に解明することを目的とする。2019年度までの研究成果として、肝癌由来細胞において核内脂肪滴は小胞体内腔で形成されたリポプロテイン前駆体に由来すること、ホスファチジルコリン (PC) 新規合成経路の律速酵素CCT alphaが核内脂肪滴に集積し活性化されることにより、小胞体ストレスが軽減されること、また核内脂肪滴同士の融合にはCidebおよびパートナー候補分子Tが関与することなどを見出し、成果の一部は国際誌および国内学会において報告した。 2020年度はまず、リポプロテイン合成能を持たない非肝由来細胞におけるよりユニバーサルな核内脂肪滴形成機構の解析を開始し、肝由来細胞の機構との違いを比較した。その結果、小胞体膜に存在する脂質合成酵素群が、内核膜にも存在することを同定し、成果の一部を国際誌に報告した。次に核膜陥入構造の形成に影響を及ぼす分子を検索した。その結果、核内ウイルス粒子の細胞質への移行時の核膜変形に関与する複数の分子が、肝由来細胞における核膜陥入構造の形成と核内脂肪滴形成量に影響を与えることが判明し、その詳細な分子機構についてさらに解析中である。さらに核内脂肪滴と既知の核内構造体機能との関係性については、核内脂肪滴がDNA修復機構に関与する可能性を見出し、詳細な分子機構について解析中である。
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