本研究計画の目的は、マウスの成体ニューロン新生の場のひとつである脳室下帯(subventricular zone: SVZ)に存在する少数の成熟ニューロン(SVZ neuron: SVZ-N)の解析を行うことである。SVZ-Nは、申請者が発見したものであり、本研究によって、その形態学的特徴を明らかにすることができた。つまり、発生学的には、その産生ピークが、胎生13-14日と生直後の二峰性に現れた。また、成体脳においては、各ニューロン群の構成比と投射先については、隣接する線条体ニューロンと、ほぼ同様であることが分かった。その一方、線条体ニューロンと形態が大きく異なっていた。また、コリン作動性ニューロンのSVZにおける存在の有無は、以前から議論の対象になっていたが、本研究から存在しないことが判明した。更に、下位中枢神経系にみられる脳脊髄液接触ニューロンとは異なり、SVZ-Nは、上衣細胞で脳脊髄液と隔離されたニューロン群であった。 SVZ-Nは、他の中枢神経系ニューロン同様、胎生期に産生された後、一部のSVZ-Nは、成熟中に細胞死によって脱落してゆく可能性が示唆された。この過程を解析する際、細胞死の研究分野においても副次的な成果を挙げることができた。変性ニューロンを組織学的に、高感度、簡便、特異的に検出する方法として、FluoroJade C (FJC)染色が頻用される。しかし、FJC染色は、一般に想定されているよりも、変性ニューロン検出に対する特異性が完全ではない事を示し、信頼性に対して警鐘を鳴らすことになった。また、FJC染色と、抗体を用いた免疫染色との二重染色プロトコールを改良することで、FJC染色の有用性を広げることにも成功した。
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