研究課題/領域番号 |
18K06839
|
研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
松本 英子 埼玉医科大学, 医学部, 助教 (00312257)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 神経回路形成 / 大脳皮質ニューロン / 軸索ガイダンス / 軸索側枝形成 / ネトリン-1 |
研究実績の概要 |
多機能性の軸索ガイダンス因子ネトリン-1に対し、発生の過程にある大脳皮質ニューロンが示す反応には、軸索伸長と軸索側枝形成がともに知られる。過去に我々が行った研究では、大脳皮質ニューロンのネトリン-1に対する反応が、ニューロンの発生段階に依存することを示唆する結果が得られている。本研究では、大脳皮質ニューロンに皮質脊髄路ニューロン、脳梁交連ニューロンなど種々の細胞集団が含まれていることを考慮し、胎生期マウス大脳皮質由来の初代分散培養を利用して、発生段階による差違を生ずる機構の解明を目指している。軸索分岐が形成される機構については未解明の部分が多く、皮質脊髄路ニューロンや脳梁交連ニューロンの軸索分岐がどのような様式・機構により形成されるのかについてもよく分かっていないことから、本研究課題では特に注目している。 大脳皮質の発生の際には遅生まれのニューロンほど表層側に配置されるが、脳梁交連ニューロンは誕生時期の異なる細胞集団を含みⅡ/Ⅲ層、Ⅴ層、Ⅵ層に存在することが知られる。2020年度はⅤ層に存在する脳梁交連ニューロンのサブポピュレーションに関する解析を、脳梁交連ニューロンのマーカーとしてよく知られるSATB2に対する抗体を用いて試みた。この時、各層のニューロンを誕生時期の違いにより区別するために、マウスにチミジンアナログEdUを投与し、その新生DNAへの取り込みを利用した増殖細胞の標識を併せて行った。 まず大脳皮質Ⅴ層ニューロンを標識する目的で、胎生13日 (E13) に3時間のインターバルによる複数回のEdU投与を行った後、E16において大脳皮質より初代培養ニューロンを調製した。この試料でEdUの累積取り込みを検出する細胞増殖アッセイと、抗SATB2抗体による免疫細胞化学の蛍光二重染色を実施したところ、SATB2陽性かつEdU陽性を示すⅤ層脳梁交連ニューロンが認められた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
自然災害 (感染症の流行) の影響等によって実験計画に遅れが生じており、Ⅴ層脳梁交連ニューロンを標識する方法の確立を現在目指している段階である。当初予定していた、この細胞集団の一次軸索長と分岐密度に関する定量的画像解析は、次年度に持ち越しとなった。
|
今後の研究の推進方策 |
これまで用いてきた脳梁交連ニューロンマーカーSATB2は、細胞内において核に局在する。このため、ニューロン一次軸索の長さ、分岐数、糸状仮足数を顕微鏡画像上で計測する際、SATB2陽性かつEdU陽性を示すⅤ層脳梁交連ニューロン軸索の特定に慎重な検討を要することが、研究遂行上の課題として挙げられる。 もし軸索に発現する脳梁交連ニューロンのマーカーが利用可能であれば、一次軸索長、分岐密度、糸状仮足密度に関する解析が容易かつ正確に行えるものと考えられる。そこで今後はまず脳梁交連ニューロンのマーカーのうちで、軸索での発現が予想されるものによる免疫蛍光染色を試み、これがSATB2陽性細胞と一致することを蛍光二重染色により確かめる予定である。その後、これまでと同様の手順に従い、E13におけるEdUの複数回投与によって大脳皮質Ⅴ層ニューロンを標識したマウスから初代分散培養を調製する。これを用いて、脳梁交連ニューロンマーカー陽性かつEdU陽性を示すⅤ層脳梁交連ニューロンの一次軸索長、分岐密度、糸状仮足密度に関する解析を実施し、ネトリン-1刺激に対する軸索伸長反応/軸索側枝形成反応がみられるか否かを明らかにする計画である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
自然災害 (感染症の流行) の影響を受け実験の遂行が数ヶ月間に渉って滞ったこともあり、研究計画の実施に遅れが生じた。このため、研究期間の一年間延長を申請し認められた。 生じた次年度使用額は、実験動物・消耗品・機器の購入、ならびに研究成果の発表のための費用に充当する予定である。
|