研究課題
本研究者らはこれまでO-グリコシド結合N-アセチルグルコサミン(O-GlcNAc)と呼ばれる糖の修飾(O-GlcNAc化)の変化を指標にして、糖尿病性腎症に伴いO-GlcNAc化の顕著に変化するタンパク質の同定をグライコプロテオミクスにより試み、アクチン、αアクチニン4などの細胞骨格タンパク質を同定し、糸球体並びに尿細管における局在の変化を明らかにした。近年、O-GlcNAc修飾によるアクチンの機能調節、さらに修飾異常と心疾患やがんなど種々の疾患との関係が明らかになってきている。質量分析により、アクチンのO-GlcNAc化部位は6ヶ所あり、そのうち3ヶ所はリン酸化部位と同一であることが分かっているが、これらの部位のO-GlcNAc化が、アクチンの機能の調節にどのように関与しているかはいまだ不明である。本年度は、リン酸化部位と同一である3ヶ所のうちの1ヶ所のO-GlcNAc化ペプチドを抗原として特異的O-GlcNAc化アクチン抗体を作製し、免疫染色により正常のWistarラット腎臓と比較し、糖尿病モデルGKラットの腎臓において糖修飾アクチンの局在が核と細胞質で変化していることを明らかにした。さらに糖尿病合併症と糖修飾アクチンとの関係を解明することを目的に糖尿病モデルGKラットの坐骨神経と網膜における糖修飾アクチンの局在を検討した。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画に沿っておおむね順調に進行している。
ヒトの糖尿病性腎症の腎標本を用いて、モデル動物での観察結果と同様の結果が得られるか検討する。さらに、アクチンへの糖修飾を増加する、あるいは阻害する条件下で腎糸球体上皮細胞を培養し、糖修飾アクチンの核―細胞質間のシャトリングを検討する。腎糸球体上皮細胞を高濃度のグルコースあるいは加水分解酵素O-GlcNAcaseの阻害剤PUGNAcまたはThiamet G存在下で1から8日間培養することによりアクチンへの糖修飾を増加させ、その際の細胞の形態変化並びに糖修飾アクチンの局在を光顕、電顕レベルで検討する。さらにこれとは逆に、O-GlcNAc転移酵素の阻害剤Ac4SGlcNAc存在下で培養し、アクチンへの糖修飾を抑制したときの形態変化並びに糖修飾アクチンの局在を光顕、電顕レベルで検討し、核と細胞質との間のシャトリングにおけるアクチンの糖修飾の役割を明らかにする。またF-アクチンの脱重合を阻害するジャスプラキノライド、G-アクチンの重合を阻害するラトルンキュリン、あるいはF-アクチンのプラス端の伸長を阻害するサイトカラシンによる糖修飾アクチンの局在の変化を、GFP融合アクチンとLifeactを使ってライブイメージングを行い解析する。
作製した糖修飾アクチン抗体が免疫染色、免疫沈降、イムノブロットに使えない場合を想定して、選択したO-GlcNAc化部位とは別のO-GlcNAc化部位を含む配列を選び、修飾ペプチドを作製、ウサギに免疫して、部位特異的抗体を精製して実験を行うことを予定していたが、作製した糖修飾アクチン抗体が免疫染色、免疫沈降、イムノブロットに使えたためその必要がなくなった。今後、さらに別のO-GlcNAc化部位を使って作製した糖修飾アクチン抗体を作製して糖修飾アクチンの役割について解析する予定である。
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