昨今、献体遺体を用いたサージカルトレーニングのニーズが高まっており、組織が組織が固くならない固定法の開発が望まれている。本研究では、研究代表者らが開発したピロリドン固定解剖体の特性や固定の至適条件を明らかにし、解剖学研究・教育・研修への応用のストラテジーを確立することを目的とする。 昨年度までに、ピロリドン固定法の最適条件を検討し、ピロリドン固定解剖体が消化器外科の腹腔鏡手術や脳神経外科の頭蓋底腫瘍に対する内視鏡的経鼻的アプローチ手術の手技修練に有用であることを報告した。本年度は、さらに耳鼻咽喉科における喉頭の生理機能の解析や、麻酔科におけるエコーガイド下局所麻酔のガイド針開発における有用性につき検討した。 ピロリドン固定解剖体(体重換算で最終濃度10%)より摘出喉頭モデルを作製し、気管側から酸素を送気して、喉頭原音を産生する吹鳴実験を行った。高速度デジタル撮影により声帯の振動を観察したところ、ピロリドン固定喉頭標本では生体での振動に類似した周期的なしなやかな動きが観察され、喉頭原音が聴取された。ホルマリン固定標本では声帯の振動は観察されず、喉頭原音も生じなかった。このことから、本喉頭モデルは発声の生理機能検討や音声改善手術の修練に有用であると考えられた。 医療機器開発への応用についても検討を行った。エコーガイド下で安全に深部麻酔を行うために、先端よりエコーを発する穿刺針を開発した。その有用性を検討するために、ピロリドン固定解剖体を用いて、当該穿刺針を用いてエコーガイド下に胸腹部の深部神経ブロックを行い、穿刺針の先端が可視化されること、穿刺した部位に色素が注入されていることを示した。 以上、本研究を通じて、ピロリドン固定法が消化器外科、脳神経外科、耳鼻咽喉科、麻酔科など臨床各科におけるサージカルトレーニングや医療機器開発に有用であることを実証することができた。
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