哺乳類の発生期大脳新皮質では、脳室面付近で誕生した神経細胞は脳表面下の辺縁帯直下まで移動し、その後に神経細胞同士が互いに集積する。本研究では、この神経細胞同士の集積が大脳新皮質層構造形成の起点となると仮説を立て、神経細胞集積の分子機構を明らかにすることを目的に行った。2022年度までの研究により、辺縁帯に局在する分泌因子タンパク質Reelinを移動神経細胞が受容することにより、神経細胞内で機能する分子を複数見出し、これらの分子が細胞接着に関与する可能性を示唆した。 本年度は、まず、神経細胞がReelinを受容することにより、Reelinシグナルのハブタンパク質であるDab1が細胞膜の脂質ラフトドメインに移行し、この現象がその後のN-カドヘリン依存的な細胞間接着力の増強に必要なことを見出した。また、Pachygyria患者から見つかったReelin点変異により起こる機能異常を検証した。その結果、変異Reelinでは、野生型Reelinと比較してReelin受容体との親和力が有意に減少することを発見した。 研究期間全体を通じて、Reelin受容体の下流で細胞接着に関与する分子の探索を行い、N-カドヘリン依存的な細胞間接着力の増強に関与する分子を複数同定した。さらに、これらの分子が神経細胞膜の脂質ラフトに移行することでN-カドヘリン依存的な接着力の増強が起こることを見出した。また、Pachygyria患者から見つかったReelin変異体の機能異常について、Reelinの細胞外分泌機能、Reelin受容体との結合力および、Reelinにより誘導される細胞凝集塊形成への影響の観点から検証を行い、その障害を明らかにした。
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