研究実績の概要 |
これまでの研究でわれわれは、(1) 膜貫通型受容体型チロシンキナーゼをコードするEphA3がニワトリ胚の腸輪走筋に特異的に発現すること、(2) EphA3のパートナー分子であるephrinAファミリーの複数のメンバーが神経叢で発現すること、(3) 初期の予定腸中胚葉は胃の環境下に置かれるとEphA3陰性の輪走筋しか形成しないこと、(4) 胃原基のマーカーBarx1の発現も同様に周囲環境の影響を受けること、を明らかにしてきた。本年度は、消化管平滑筋の形成過程をさらに詳しく調べるため、EphA3以外のEph/ephrinファミリーメンバーのニワトリ胚消化管における発現パターンの解析を行った。特筆すべき器官/筋層特異的な発現パターンを示したのは、EphA7, EphB1, ephrinB1の3種類であった。EphA7の発現は食道の粘膜筋板および胃と腸の輪走筋に、EphB1の発現は腸の粘膜筋板に、ephrinB1の発現は腸の粘膜筋板と輪走筋に検出された。次いで、EphA3および上記3種類すべての発現が認められる大腸に着目し、これらの遺伝子の発現を発生段階を追って詳しく解析した。のちに粘膜筋板と輪走筋で発現するephrinB1の発現はE4には既に観察され、その発現は内外軸に沿った明瞭な勾配をなしていた。EphA3は6日胚以降に輪走筋で、EphB1は8日胚以降に粘膜筋板で、EphA7はEphA3に遅れて10日胚以降に輪走筋で発現が検出された。これらの結果は、消化管の平滑筋が異なるEph/ephrin遺伝子を発現する多様なサブタイプから構成されていること、平滑筋の筋層特異性の獲得が長期間にわたって起こる多段階的なプロセスであることを示唆している。また本年度は消化管平滑筋の起源である臓側中胚葉や同じく臓側中胚葉を起源とする心臓原基への遺伝子導入実験も行った。
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