研究課題
宇宙から帰還後の平衡機能障害に対する前庭刺激の効果:長期宇宙滞在前後で,球形嚢 (cVEMP) と卵形嚢 (oVEMP) の機能および平衡機能障害の指標としての重心動揺を調べた。帰還直後には球形嚢機能は低下したが,卵形嚢機能は比較的保たれていた。また,帰還直後にみられた重心動揺の増加が,感知閾値以下の微弱なノイズ波形を用いたnoisy-GVSにより抑制された。これらの結果は,微小重力により球形嚢と卵形嚢は異なった影響を受け,そのoutcomeとしての平衡機能障害は,noisy-GVSにより改善される可能性を示唆する。過重力負荷に対する前庭系可塑的変化の中枢機能を調べるため,光遺伝学的ツールを用い,前庭神経核のCAMK2発現ニューロンの応答性を2 g負荷前後で調べた。片側の前庭核複合体におけるCAMK2発現ニューロンの興奮性光刺激は反対側,抑制性光刺激は同側への身体傾斜を誘発した。吻側延髄腹外側野に投射する前庭神経核光刺激は,交感神経興奮,昇圧反応を示した。この応答は,2 g負荷開始1日後から減少し,5日目には22.4±3%まで減少した。以上の結果から,過重力負荷に対する前庭系を介する調節機能の可塑的変化に少なくとも前庭神経核―吻側延髄外側野の応答性低下が関与していることが分かった。過重力と減負荷に応答して筋肉と骨を結ぶ液性因子を明らかにするために,DNAマイクロアレイ分析を実施し,後肢減負荷増加し,過重力によって減少する遺伝子として,Dkk2を同定した。単純回帰分析では,血清Dkk2は,海綿骨ミネラル密度,脛骨のRANKの受容体活性化因子のmRNAレベルにそれぞれ正と負に相関した。以上の結果,骨格筋におけるDkk2発現の増加は,廃用および微小重力によって誘発される骨・筋量減少の一因となる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では,「前庭刺激により筋量・骨量減少,平衡機能障害が改善されるか?」という課題に取り組んでいる。この課題に対し,微弱電流によるnoisy-GVSを用いることにより,微小重力により引き起こされた平衡機能障害が改善されることを示唆する実験結果を得ることができた。この結果はGVSの臨床応用をサポートするものであり,今後の研究に繋がることが期待される。また,前庭系の可塑的変化を引き起こす中枢部位として,前庭神経核⇒吻側延髄外側野を同定した。この研究成果は,今後これらの部位に介入することにより,前庭系の可塑的変化を予防できる可能性を示唆するものである。さらに,重力⇒前庭系⇒筋・骨代謝に関連する因子として,FKBP5,Follistatin,さらに本年Dkk2を同定した。今後,これらの因子がnoisy-GVSによりどのような変動をするかを調べることにより,その効果を確認することができる。
これまで,ラット用の長期刺激用GVS装置は開発していたが,マウス用の装置は存在しなかった。2019年度の予備実験として,マウスに装着して2週間にわたりGVS刺激が可能な装置を取得したので,2020年度はマウスを用いてnoisy-GVSの効果を確かめる以下の実験を行う予定である。尾懸垂に対する下肢筋・骨量減少に対するnoisy-GVSの効果運動負荷に対するnoisy-GVSの相加的効果についての検証
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