研究課題/領域番号 |
18K06851
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
古家 喜四夫 名古屋大学, 総合保健体育科学センター, 研究員 (40132740)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ATP放出 / ルミネッセンスイメージング / がん微小環境 / 乳がん細胞 / 低張刺激 / DCPIB / VRAC / LRRC8 |
研究実績の概要 |
がんは自らの周りに生存を維持するための微小環境を構築しており、そこにはATPが高濃度で存在する。このATPの大きな役割は分解によりアデノシンを生成、高濃度に維持することにより、がんに対する免疫攻撃を抑制することである。しかしがん微小環境においてATPが高濃度に維持されるメカニズムは分かっていない。本研究は、私たちの開発したATPリアルタイムイメージング法を用いて見出すことのできたがん細胞特異的なATP放出現象の機序と役割を明らかにし、がんにおけるATPシグナリングを解明することを目的としている。これまでに低張刺激によるATP放出のイメージングから、初代培養の正常乳腺上皮細胞と乳がん細胞を含む未分化株細胞とでは全く異なったATP放出パターンを持つこと、未分化の細胞株に特異的にみられる散漫的持続的なATP放出は容量調節性Cl-チャネル(VRAC)の阻害剤であるDCPIBでのみ阻害され、炎症性物質Sphingosine-1-Phosphateで細胞容積変化を伴わずに活性化されたことから、VRACががん細胞におけるATP放出経路であると考えられた。またがん微小環境に多く存在する上皮間葉系転換を引き起こすTGFβ処理によって増大することも分かった。さらにVRACの分子実体であるLRRC8 (Leucine-rich repeat-containing protein 8)ファミリー(AからEの5種類)が私たちの用いている乳腺細胞株に発現しており、特にA, C, Dの発現量が多いこと、散漫的持続的ATP放出を増強させるTGFβ処理によってその発現量が増えることなどをリアルタイムPCRによって明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低張刺激によってがん細胞において正常細胞とは異なったATP放出機序の違いを見出し、それは容量調節性Cl-チャネル(VRAC)の阻害剤であるDCPIBで阻害され、炎症性物質Sphingosine-1-Phosphateで細胞容積変化を伴わずに活性化されることなどからVRACと考えている。それを明らかにするため今回VRACの分子実体であるLRRC8Aと8Bから8E計5つのisoformsの遺伝子の発現レベルを調べ、間違いなく発現していること、ATP放出量を増大させるTGFβ処理によって発現量が増加することなどを明らかにでき、当初の計画どおり順調に進んでいるということができる。
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今後の研究の推進方策 |
低張刺激によるがん細胞特異的なATP放出機序はVRACの分子実体であるLRRC8AとそのisoformsのLRRC8B-Eが用いている乳腺細胞株で発現しており、ATP放出量とその発現量に相関があることなどが分かってきた。さらにこれらisoformsのノックダウン実験でATP放出との関連を確認していく必要がある。Isoformsのうち特にA,C,Dの発現量が多く、中でもLRRC8CはATP放出量を増大させるTGFβ処理によって明らかに増大し、VRACのATP放出能とisoformsの組み合わせとの関連を明らかにしていく。また正常乳腺細胞の多様なATP放出機序をあらためて見直し、それらの発生要因や制御機構とがん細胞特異的放出機序との関連を調べることも重要と考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は昨年度延長した科研費基盤研究(C)「ATP放出の多様性の機序とその生理学的意義」(15K08174)の予算もあり、実験の基本部分は同じであるため、大量に使用するATP測定試薬や培養用試薬などはまとめて購入し、高価な阻害剤や抗体は使用量が少ないため共用することにより、全体としての節約に努めた。その結果消耗品の使用額を抑えることができた。次年度ではリアルタイムPCRや遺伝子ノックダウンの実験を予定しているがそれら実験のキットには当初予定よりも多額の費用が必要と思われ繰り越した予算はそれらに充てる。
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