研究課題/領域番号 |
18K06852
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
橘 吉寿 神戸大学, 医学研究科, 講師 (50373197)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 大脳基底核 / 線条体 / 不随意運動 / GABA / 2光子顕微鏡イメージング / 光遺伝学 |
研究実績の概要 |
チックとは、反復性の動作を示す運動チックと、奇声を発する・下品な言葉を連発する音声チックから成る。有病率は1万人に4-5人とされ、かつては親子関係や対人関係などの心理的ストレスをトリガーとする疾患と考えられたが、現在では遺伝的側面も要因として挙げられる脳機能障害の一種と考えられるようになりつつある。しかしながら、チックの病態生理に関しては、未だ明らかでない点が多い。そこで、本研究では、これまでのヒト患者での組織学的知見ならびにfMRIなどでの画像研究データを基に、大脳皮質の活動を支える大脳基底核の線条体における神経伝達異常がチックの本態であるという仮説を立て、抑制性神経伝達物質であるGABAの拮抗薬を線条体に注入することで、マウスチックモデルを作製することが可能かどうかを検証した。健常マウスの線条体にGABA受容体拮抗薬を局所注入した結果、脳波ならびに筋電図から見て、てんかん症状とは異なるチック様症状を誘発することに成功した。また、このようなチック症モデルマウスの大脳皮質一次運動野から2光子顕微鏡にて多細胞同時神経活動記録を行うことで、脊髄を介して筋肉を支配する運動野の同期した神経活動上昇が引き起こされるかどうかを現在検証している。さらに、光遺伝学を用いた神経細胞操作法(オプトジェネティクス)による大脳皮質―大脳基底核回路の人工的神経活動操作が、マウスのチック症状を改善するかどうかについても検証している。これらの実験を行うことで、チック症の病態解明を目指し、新たな治療法の開発・創薬開発に発展させたいと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、特に「チック症モデルマウスの開発」を中心に研究計画を遂行した。線条体へのGABA受容体拮抗薬局所注入により、チック様症状が誘発されることを確認した。また、チック様症状の発現時に活性化させる脳部位を、c-Fos発現を指標に解析した結果、淡蒼球や視床といった運動関連脳部位のみならず、情動・認知に関与する脳部位が活性化されることも明らかとなった。既に、このチック症モデルマウスを用いた、脳活動イメージング実験ならびに新規治療法開発に繋がる実験もスタートしており、全体として研究が極めて順調に進展していると考えられるため。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画は当初の予定どおり順調に進展しており、平成31年度は前年度にスタートした研究計画(1)を継続するとともに、研究計画(2)および(3)を実施する。 (1) 2光子顕微鏡カルシウムイメージングにより、チック症モデルマウスの症状発現前後での大脳皮質一次運動野ニューロン活動を比較検討する。 (2) チック様症状発現時に活性化する脳部位を、一時的に薬物にて不活性化することで症状が緩解するかどうかを検討する。 (3) 2の薬物実験で効果のあった脳部位を、電気刺激あるいは光遺伝学による人工神経活動操作を行うことで症状改善がもたらされるかどうかを検討し、臨床応用に繋げる。
|