チックとは、反復性の動作を示す運動チックと奇声・汚言を発する音声チックから成るが、その病態生理に関しては未だ明らかでない。本研究では、大脳基底核の線条体における異常興奮がチックの本態であるという仮説のもと、線条体へのGABA受容体拮抗薬局所注入により、マウスチックモデルを作製し、神経科学的手法を用いて、その病態生理を解き明かす。昨年度までに、マウス線条体へのGABA受容体拮抗薬であるBicucullineの少量注入により、線条体における体部位局在に一致した一過性の筋収縮を示すチック症状を誘発することを明らかにした。 本年度は、線条体Bicuculline注入モデルマウスの全脳において、c-Fosタンパクの免疫染色を行うことで、チック様症状発現時の活性化脳部位を検討した。その結果、一次運動野に加えて、扁桃体、帯状皮質、島皮質、梨状皮質といった情動機能に関与する辺縁系脳部位の活性化を観察することができた。このことは、運動チック・音声チックを呈するトウレット症候群の患者において、運動症状に先行して、Premonitory urgeといって、ムズムズするような不快な感覚症状が生じる現象に関与しているのかもしれない。実際、トウレット症候群の患者では、島皮質の活性化も脳機能画像研究により報告されている。 現在、扁桃体、帯状皮質、島皮質、梨状皮質といった、線条体Bicuculline注入モデルマウスにおけるc-Fos陽性脳部位に、ハロロドプシンを発現させ、光遺伝学により人工的に神経活動操作する(活動抑制させる)ことで、線条体Bicuculline注入後のチック症状が改善するかどうかを行動学的に解析中である。
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