身体に一定量しかない血液は、必要なとき必要とする器官に絶妙にやりくりされている。水道の蛇口のように、自律神経の中枢が器官ごとの血管径を変えて血流の再配分を行うと考えられている。延髄には安静時の血管交感神経活動を調節する専用のニューロンネットワークがあり、特定の興奮性レセプター(iEAAR)を介することが近年明らかになっている。しかし、いろいろな器官の血流調節を行なう専用ニューロンの延髄内の分布等の詳細についてはいまだ不明である。私たちはL-システインの中枢性血圧作用を発見し、iEAARを介することを明らかにしてきた。本研究では、血流再配分のしくみ解明を目指して、L-システインでラット延髄を刺激して血流抵抗反応マップを作成し、器官ごとの血流調節ニューロンの局在の有無を調べた。初年度、筋肉への血流調節部位は延髄の昇圧および降圧野に広く分布すること、さらにアドレナリン分泌による筋血管拡張を起こす部位をラットで初めて確認した。次年度は、総頸動脈血流調節部位について調べ、筋血流と異なり状況依存的に交感神経性の血管収縮反応局在が吻側延髄腹外側(RVLM)に存在することを報告した。最終年度は、頸動脈拡張部位について追及し、延髄の小細胞性網様体parvocellular reticular formation(PcRt)に広く分布することを証明した。この結果は、脳神経起始部が唾液核に限局するという従来の認識を一新し、解剖学的に示唆されたより広いPcRt尾側領域に分布することを機能的に支持する。延髄において筋血流および頸動脈血流調節部位が広く分布していることから、他の循環系調節部位と密に情報交換しながら器官の活動に応じた血流量を決めていると思われる。本研究プロジェクトにより、血流配分を行う複雑なニューロンネットワーク解明への糸口となる重要な結果が得られた。
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