研究実績の概要 |
令和3年度ではインテグリンの活性化と微小管の安定化に関与する細胞内シグナル伝達系を薬理学的に解析した。 1) 微小管結合タンパク(MAP1B)をリン酸化する酵素(GSK3)の抑制剤(LY2090314)の効果:MAP1BがGSK3によりリン酸化されると微小管は安定化型から非安定化型へ変化する。電場をかけない場合、低濃度(2.5 nM, 10 nM)のLY2090314は鶏胚網膜神経節細胞の軸索伸長を促進し、高濃度(50 nM)では抑制した。LY2090314の存在下では電場の作用が消失した。これらの結果はGSK3によるMAP1Bのリン酸化が電気的軸索誘導に必須であることを示唆する。低濃度のLY2090314は安定化型微小管を増加させ、軸索の本幹部分の伸長を促進したと考えられる。高濃度のLY2090314は非安定化型微小管を過度に減少させ、非安定化型微小管の役割である軸索先端部におけるアクチン線維との結合が抑制され、軸索先端部の成長が減速したと考えられる。2) Aktの活性化剤(SC79)の効果:Aktはインテグリンにより活性化され、GSK3をリン酸化することによりGSK3を抑制する。SC79(25 uM)は軸索伸長を促進し、電場の作用を消失させた。この結果から、インテグリンはAktの活性化を介してGSK3を抑制すると考えられた。3) ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)の阻害剤(Omipalisib)の効果:PI3Kはインテグリンにより活性化されAktを活性化する。低濃度(2.5 nM)のOmipalisibは軸索伸長を促進し、電場の作用を消失させた。さらに濃度を上げると(10 nM, 100nM)、軸索は過度に伸長した。PI3Kの活性化は微小管の安定化に必要であり、非安定化型微小管が過多になると軸索先端部が過度に成長すると考えられる。
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