本研究の目的は、「膵臓β細胞における電位依存性Ca2+チャネルを介したCa2+シグナル制御機構が、脂質代謝のセンシング・調節機構と連携している」という作業仮説を検証することにより、脂質異常を背景とした膵β細胞インスリン分泌機能不全の新たなメカニズムを明らかにすることである。我々は、これまでにリン脂質転移蛋白(Stard10)が心房、膵臓、肝臓、小腸などの組織に特異的に発現し、脂質代謝ならびに脂肪滴サイズの制御に関わっており、電位依存性L型Ca2+チャネルαサブユニット(CaV1.2)と相互作用することを見出してきた。加えて、過去に実施した予備実験において、細胞内Ca2+シグナルがStard10遺伝子の発現抑制により影響を受けたことから、リン脂質転移を介して電位依存性L型Ca2+チャネルの機能制御に関わる可能性に着目した。最近、2型糖尿病のリスク遺伝子の解析からStard10が膵臓β細胞におけるインスリン分泌と細胞内Ca2+シグナル制御に関わることが報告されたが、そのメカニズムは現在のところ不明である。 そこで本研究において、膵臓β細胞におけるインスリン分泌―電位依存性L型Ca2+チャネル/細胞内Ca2+シグナル―脂質代謝の連関機構を解析するべく、マウスβ細胞株(MIN6細胞)を用いて、電位依存性L型Ca2+チャネルの細胞膜発現量および細胞内Ca2+シグナルのアッセイ系を構築し、電位依存性L型Ca2+チャネルの発現および局在、細胞内Ca2+シグナル、インスリン分泌顆粒の動態をリアルタイム・イメージングにより解析する実験系を構築した。これらの系を用いて、電位依存性L型Ca2+チャネルの細胞膜発現量の制御に関わる相互作用蛋白と脂質代謝の影響について、解析を行った。加えてンスリン作用を介した電位依存性L型Ca2+チャネルの発現・細胞内局在の制御についても解析し考察を行った。
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