研究課題/領域番号 |
18K06861
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研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
松本 貴之 星薬科大学, 薬学部, 准教授 (30366835)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 内皮機能障害 / 血管平滑筋 / 糖尿病 / 血管弛緩反応 / 血管収縮反応 |
研究実績の概要 |
糖尿病で生じる合併症は血糖制御のみでは完全に抑止できず、各臓器や病期での機能障害機構など不明点が多い。合併症形成には、全身に分布する血管の機能障害が関わるが、タンパク質の糖化で生じる終末糖化産物 [advanced glycation end products (AGEs)] や、慢性炎症関連分子の血管機能との関連、分子機構は不明である。AGEsは、腎排泄機能の低下に伴い蓄積する尿毒症物質である。また、インドキシル硫酸 (IS) トリメチルアミンNオキシド(TMAO)といった腸内細菌由来物質も、排泄能低下により蓄積されるが血管への影響は不明であった。本研究では血管に対するAGE、IS、TMAOの直接的影響について検証し、以下の結果を得た。 1. ラット摘出動脈におけるIS急性暴露により前年度、アセチルコリン (ACh) 誘発内皮依存性弛緩反応が胸部大動脈、上腸間膜動脈にて減弱し、胸部大動脈で酸化ストレスが関与することを見出した。今回、上腸間膜動脈でのACh弛緩減弱はPGI2や内皮由来過分極因子(EDHF)でなく、一酸化窒素シグナルの減弱に起因していることを見出した。また、TMAO急性暴露で上腸間膜動脈ではACh弛緩に影響せず、大腿動脈にてEDHFによる弛緩反応が特異的に減弱することを見出した。2.ラット頸動脈にてAGE急性暴露でUDP誘発収縮が増大し、これには、シクロオキシゲナーゼ/トロンボキサン受容体経路が関与する新規機序を見出した。さらに、AGEを長時間ラット頸動脈へ暴露することでノルアドレナリン収縮が減弱し、これには、過酸化水素並びに大コンダクタンスカルシウム活性化カリウムチャネルが関与することを見出した。よって、AGEs、IS、TMAOの動脈特異的制御が病態時における合併症形成抑止に繋がると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、糖尿病性合併症、慢性炎症、そしてAGEs自体並びにAGEsと関係のある腸内細菌由来物質であるIS及びTMAOの急性暴露による動脈部位特異的な影響とその機序の一部を見出した。また、AGEsを始めとする物質の慢性的な血管機能への影響を検討するための器官培養法を確立させAGEsの長期暴露による血管機能への影響を見出した。研究の焦点の絞り込みを進んだことから、今後、さらなるAGEsの血管への直接的影響と慢性炎症関連分子についての相互作用を検討しつつ、IS、TMAOを始めとした、近年、AGEsや慢性炎症関連分子との関連が明らかとなりつつある腸内細菌由来物質等との相互作用を血管内皮、平滑筋機能に焦点を当てて詳細に検討する。予算の関係により規模が縮小しているものの、現在、概ね順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、AGEs並びに腸内細菌由来物質が直接血管内皮細胞・平滑筋機能に影響を及ぼすこと、その影響が動脈部位特異的に起こることを明らかとした。今後、時空間的側面で検討するために、器官培養法を用いて、腸内細菌由来物質、AGEsやTLRリガンドの長期暴露の影響を検討することで、急性、慢性的な影響を詳細に検討する予定である。また、AGEsとそのシグナル、慢性炎症に関わる分子との相互作用を明らかとしていく。さらに、他の腸内細菌由来物質や、病態モデルを用い、血管部位特異的なAGEs、TLRsシグナルの内皮・平滑筋細胞への障害分子機構を明らかとする。これにより糖尿病性合併症形成への関与を理解し、部位特異的な治療法の開発のための治療ターゲットとしての位置づけを明確にする。
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