研究課題
【目的】グラム陰性桿菌Porphyromonas gingivalisは歯周病の主要な原因菌であり、その内毒素 (PG-LPS) と心疾患との関連が示唆されているが、その詳細なメカニズムの解析は不十分である。本研究では「PG-LPSによる心筋細胞に発現するtoll-like receptor 4 (TLR4) への慢性刺激が心疾患発症を促進する」という仮説を立て、TLR4特異的遮断薬TAK242を用いて検討を行った。【材料および方法】雄性マウス(C57BL6/J, 12週齢)を用いてPBS投与群(Control群)、PG-LPS投与群 (0.8mg/kg/day, ip)、 TLR4遮断薬 (TAK242) 投与群 (3mg/ kg/day, ip)、TAK242+PG-LPS併用投与群の4群を作成した。実験開始4週後に生理学解析(心エコー測定)・血清サイトカインレベル解析(Bio-Plexアッセイ法)・実験終了後心臓を摘出し組織学的解析・分子生物学的解析(ウェスタンブロット法:WB)を行った。【結果】心エコーによる左室収縮能(LVEF:左室駆出率・FS:左室内径短縮率)はControl群に比較してLPS投与群では有意に低下したが、TAK242併用群では、その低下が有意に抑制されていた。Bio-Plexアッセイ法を用いた血清サイトカインレベルの評価は4群間に有意差は無かった。マッソントリクローム染色による線維化領域の割合はControl群に比較してLPS投与群で有意に高値を示したがTAK242併用群では、その上昇が有意に抑制されていた。TUNEL染色によるアポトーシス陽性心筋細胞数はControl群に比較してLPS群では有意に高値、アポトーシス抑制タンパクBCL-2の発現量は有意に低値を示したがTAK併用群では、これらの変化が有意に抑制されていた。【考察および結論】PG-LPSの慢性投与による心筋リモデリングは、LPS投与に伴う単純な炎症性変化ではなく、PG-LPSによるTLR4への特異的刺激で誘導される心筋細胞死と置換性線維化に起因することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
歯周病の主要な病原菌(Porphylomonas gingivalis:PG菌)由来のリポポリサッカライド(LPS)を中等度の歯周病患者で検出されるレベルの低濃度(0.8mg/kg/day)をマウス(57BL/6/J)に1週間投与することで心筋細胞のアポトーシス、心臓線維化領域の拡大、心機能の低下が見られた。またこれらの所見はTLR4遮断薬であるTAK-242を併用投与することで抑制された。今年度の研究成果と昨年度の研究成果よりTLR4シグナルと心臓型アデニル酸シクラーゼ(5型AC:AC5)-Epac(exchange protein direcly activated by cyclic AMP)経路が相互に関連してPG菌由来のLPSによる心不全発症を誘導している可能性が示唆された。
AC5-Epac経路とTLR4シグナルがクロストークしているという仮説の検証を分子レベルで行う。研究代表者はAC5-Epac経路による心筋細胞のアポトーシス、心臓線維化、心機能低下は筋小胞体に存在するホスホランバンならびにリアノジン受容体の過剰なリン酸化による心筋細胞内カルシウム制御異常が原因であることを報告している(Okumura et al. J Clin Invest 2014)。本仮説が正しければPG-LPS投与群ではAC5-Epac1経路に関連するシグナルの活性化がみられるが、TAK-242併用投与群ではその変化が抑制されると考えている。また単離心筋細胞を用いてPG-LPS投与群ではカルシウムトランジェントが低下するがTAK-242併用投与群ではカルシウムトランジェントの低下が抑制されると考えている。以上の予想される実験結果を検証して研究成果を国際誌に原著論文で発表する。
2020年度に行う実験が、新型コロナウイルス感染拡大のため国内在庫が欠品で、海外から取寄せの必要のある試薬類の入荷が遅延し論文投稿が遅れたため。現在論文投稿中(リバイス中)である。査読者より要求されている追加実験(カルシウムトランジェント測定と大腸菌由来LPSとPG-LPSの比較)を行う予定である。
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PLoS One
巻: 15 ページ: e0236547
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