研究課題/領域番号 |
18K06863
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
岡田 清孝 近畿大学, 医学部, 准教授 (20185432)
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研究分担者 |
河尾 直之 近畿大学, 医学部, 講師 (70388510)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 骨修復 / PAI-1 / グルココルチコイド / 骨芽細胞 |
研究実績の概要 |
グルココルチコイド(GC)は抗炎症作用をもち、慢性炎症性疾患患者に使用されている。しかし、長期投与により糖尿病や骨粗鬆症を誘発することが知られている。糖尿病状態における骨損傷後の修復過程について、ストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病モデルと比較することは有効であると考えられる。そこで、2019年度は、マウスのグルココルチコイド長期投与モデルにおける骨損傷後の修復過程について検討した。 1). 解析方法:GCの代表的な薬剤であるデキサメタゾン(Dex)誘発糖尿病モデルについて、雌性のPAI-1遺伝子欠損(PAI-1KO)マウスとその野生型(PAI-1WT)マウスを用いて検討した。マウスは右大腿骨に機械的に骨損傷を与え、その後の修復過程をqCTにより解析した。また、骨損傷部位の修復過程の組織学的解析と遺伝子発現解析を行った。 2). 解析結果:Dex長期投与マウスは、脂肪組織由来の血中PAI-1が増加した。qCT解析による骨密度は、Dex投与群と非投与群で差わなかった。Dex投与群の骨損傷後の修復は、非投与群に比べて遅延した。これに対して、PAI-1の欠損は、Dex投与による骨修復遅延を回復させた。また、Dex投与群の骨修復過程における骨損傷部位周囲のアルカリホスファターゼ(ALP)遺伝子発現とALP陽性骨芽細胞数は、非投与群に比べて低下した。これに対して、PAI-1の欠損は、Dex投与によって誘導されるALP遺伝子発現とALP陽性骨芽細胞数の低下を回復させた。 3). 結論:マウスのDex長期投与は、骨損傷後の骨芽細胞分化の抑制を伴う骨修復遅延を引き起こし、その機序にPAI-1が関与することを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度は、STZ誘発糖尿病モデルにおける骨損傷後のマクロファージと線溶系因子(PAI-1)の関与について検討し、解析結果をまとめることができた。一方、GCの長期投与により糖尿病や骨粗鬆症を誘発することが知られている。糖尿病状態における骨損傷後の修復過程について、STZ誘発糖尿病モデルとDex長期投与モデルを比較することは有効であると考えられる。そこで、2019年度は、マウスのGC長期投与モデルを用いて、骨損傷後の修復過程について検討し、Dex長期投与で骨損傷後の骨芽細胞分化の抑制を伴う骨修復遅延を引き起こし、その機序にPAI-1が関与することを示唆した。 研究実績の概要のように、ほぼ計画通り進み、予測される結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、以下のような計画で行う。 1). 糖尿病病態での骨損傷後の修復過程におけるマクロファージと血管新生との関係の解析:マウスの骨損傷部周囲のマクロファージをF4/80抗体で、血管新生をCD31抗体でそれぞれ免疫染色法で解析する。また、損傷部周囲でのマクロファージの機能を遺伝子発現解析で、血管新生をVEGFなどの因子の遺伝子発現解析で行う。 その解析結果から糖尿病状態における骨損傷後の修復過程におけるマクロファージと血管新生との両者の相互関係を解明する。 2).糖尿病病態での骨修復不全に対する線溶系因子の関与:線溶系因子遺伝子欠損マウスを用いて糖尿病モデルにおける骨損傷後の骨修復能とマクロファージおよび血管新生の解析から線溶系因子の関与を検討する。 以上の解析より、糖尿病病態での骨髄幹細胞異常によるマクロファージ動員および血管新生の抑制機序を解明し、その機序における線溶系因子の役割を明らかにできる。さらに、線溶活性制御に基づいた骨軟骨修復促進を目指した新たな再生医療への応用が期待できる。
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