グルココルチコイド(GC)は抗炎症作用をもち、慢性炎症性疾患患者に使用されている。しかし、長期投与により糖尿病や骨粗鬆症を誘発することが知られている。糖尿病状態における骨損傷後の修復過程について、ストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病モデルと比較することは有効であると考えられる。そこで、前年度より継続し今年度(2020年度)もマウスのグルココルチコイド長期投与モデルを用い、骨損傷後の修復過程におけるマクロファージ機能と血管新生について検討した。 1). 解析方法:GCの代表的な薬剤であるデキサメタゾン(Dex)誘発糖尿病モデルにつて雌性のPAI-1遺伝子欠損(PAI-1KO)マウスとその野生型(PAI-1WT)マウスを用いて検討した。マウスは右大腿骨に機械的に骨損傷を与え、骨損傷部位の組織学的解析と遺伝子発現解析を行った。 2). 解析結果:PAI-1WTのDex投与群の骨損傷後の修復部位では、非投与群に比べマクロファージと血管新生が低下した。これに対して、PAI-1の欠損は、Dex投与によるマクロファージと血管新生低下を回復させた。また、Dex投与群の骨修復過程における骨損傷部位周囲のマクロファージ誘導関連因子の遺伝子発現は、非投与群に比べて低下した。これに対して、PAI-1の欠損は、Dex投与によって誘導されるマクロファージ誘導関連因子の遺伝子発現低下を回復させた。 3). 結論:前年度までにマウスのDex長期投与は、骨損傷後の骨芽細胞分化の抑制を伴う骨修復遅延を引き起こし、その機序にPAI-1が関与することを明らかにした。さらに、今年度は、Dex長期投与による骨損傷後の骨修復遅延にPAI-1が関与するマクロファージ誘導と血管新生の低下を伴うことを示唆した。
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