研究課題
本研究では,心筋細胞の最終分化誘導因子を,in vivoで同定することを目的とし、H30年度には種々の増殖因子・ホルモン・サイトカインの阻害薬の心室筋細胞分化度に与える効果を解析する計画を立てた。我々は、これまでにAT1アンジオテンシン受容体阻害薬カンデサルタン、FGF, VEGF, PDGF受容体阻害薬ニンテダニブ、カージオトロピン受容体阻害薬SC144、甲状腺ホルモン受容体阻害薬DBD、グルココルチコイド受容体阻害薬ミフェプリストンの効果を検討し終えた。その結果、ニンテダニブとSC144が、定量的な違いは有るものの、類似した顕著な心筋細胞分化抑制効果を有することを見出した。具体的には、これらの薬物をP0-30の間連日投与したマウスでは、心筋細胞の興奮収縮連関の要であるL型Ca2+チャネル電流の生下後の発達が約10日遅れ、そのためP30の時点で対照群よりも有意に活動電位に伴う細胞内Ca2+濃度上昇と左心室収縮能が低下した。またやはり、興奮収縮連関の要である左心室筋のT菅の生下後の発達は抑制されなかったが、対照群と比較してその構造が有意に乱れた。しかし、左心室の拡張は認められず拡張型心筋症にはならなかった。心筋の組織像はほぼ正常で、心筋細胞の肥大、委縮、壊死、アポプトーシス、炎症細胞浸潤、繊維化などは認められなかった。またこれらの薬物を与えたマウスのP30における血液生化学的検査はほぼ正常であり、少なくとも見かけ上、これらの薬物の他臓器への毒性は確認できなかった。これらの結果は、FGF, VEGF, PDGF, カージオトロピンのいずれかが、生下後の心筋細胞の最終分化に必要であることを示唆している。したがって、来年度以降、各因子受容体を心臓特異的にノックダウンすることにより、より詳細に生下後の心筋細胞の最終分化の分子機構が解明されるものと期待される。
2: おおむね順調に進展している
上述のように、我々は当初H30年度に計画していた実験計画をほぼ完全に実施し、来年度につながる有意な成果を得た。
来年度は、FGF, VEGF, PDGF, カージオトロピンの受容体をアデノ随伴ウィルスベクターにより、心筋細胞特異的にノックダウンし、生下後の心筋細胞の最終分化に起こる変化を検討する予定である。この目的のため、我々は今年度、特殊な遺伝子改変マウス(LSL-Cマウス)を購入している。このマウスは、遺伝子にloxp-Sto-loxp-Cas9-GFPという配列がノックインされている。このマウスに、gRNA1-gRNA2-cTNT promoter-Cre(gRNA:ガイドRNA; cTNT:心筋トロポニンT)とい配列を持ったアデノ随伴ウィルスを感染させると、心臓特異的に標的遺伝子をノックダウンできる。またアデノ随伴ウィルスのタイターを調整することにより、一部の心筋細胞のみで遺伝子をノックアウトすることができるので、非特異的心筋細胞変化を生じる心不全を誘導することなく、特定遺伝子の心筋細胞最終分化への効果を検討できると期待している。
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