研究課題/領域番号 |
18K06870
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
山田 充彦 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (10263237)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 心筋細胞 / 最終分化 / 周産期 / L型Ca2+チャネル / サイトカイン / gp130 |
研究実績の概要 |
哺乳類の心臓は、哺乳類特異的な生下後から離乳期までの急激かつ激烈な循環動態の変化に適応するために、心筋細胞、特に左心室筋細胞の顕著な成長・分化を生ずる。具体的には、生下後早期の心筋細胞の最終分裂(二核化)、その後の肥大、T管形成、筋小胞体発達、ミトコンドリア改変と増殖などである。これまでに我々は予備実験で、VEGF、PDGF、FGF受容体やgp130受容体などが、この時期の心臓の成長・分化に重要であることを見出してきた。我々は、これらの中で特にgp130受容体の役割に興味を持ち解析を行っている。我々は、生下直後からgp130受容体の阻害薬(SC144)を継続投与したC57BL/6マウスでは、生後20日(P20)に対照マウスに比べて心エコー上左心室収縮率が有意に低下しており、病理組織上、左心室全周にわたる有意な壁菲薄化を呈することを見出した。さらに、SC144を投与したマウスでは、生下直後の左心室の心筋細胞分裂が著しく低下していた。このことから、gp130受容体が生下直後の心室筋細胞の最終分裂に重要な働きを持つ可能性が示唆された。そこで、アデノ随伴ウイルス(AAV)によるCRISPR-Cas9誘導マウスモデルを用いて、心筋細胞特異的gp130受容体ノックダウンを試みた。P1マウスに、心筋トロポニンTプロモーターで駆動されるCreと、gp130遺伝子に対するguide RNAを含むAAVを皮下注射し、心筋細胞特異的gp130ノックアウトマウスを得た。その結果、AAVマウスではSC144投与マウスと同様に、P20において対照群に比べ、左室収縮能が有意に低下しており、左心室壁が菲薄化していたが、心電図異常は呈さなかった。以上のことから、これまでにgp130受容体が、生下直後の左心室筋細胞の増殖を促し、離乳期までの心臓の成長と収縮能維持に重要である可能性が判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初はVEGF/PDGF/FGF受容体を介したシグナル経路についても研究する予定であったが、予備実験の結果から、我々は現在gp130受容体に焦点を当て研究を行っている。しかし、実験計画の大きな変更はなく、進捗状況も概ね順調である。AAVを用いた心筋細胞特異的gp130ノックアウトマウスの作出、およびその解析についても予定通り進行している。
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今後の研究の推進方策 |
本課題にとって来年度は最終年度となるので、gp130が生下後の左心室筋細胞の最終分化に果たす役割を明確として論文化することをめざす。そこで、以下の実験を順次実施する。(A) Eduを用いたDNA染色により、gp130のノックダウンがどの程度生下直後の心室筋細胞の最終分裂に関与しているかを定量化する。(B) この分裂抑制の程度が、左心室壁菲薄化を説明するに十分か否かを定量的に解析する。(C) P20の左心室筋細胞を単離し、① Di8ANEPPSで細胞膜を染色し、個々の細胞の大きさ、T管の発達異常や形態異常の有無を検討する。② JC-1でミトコンドリアを染色し、その量や形態の異常の有無を検討する。③ パッチクランプ法で、イオンチャネル電流、特にL型Ca2+チャネル電流、筋小胞体Ca2+含量の異常の有無を検討する。④ Fluo-3による蛍光Ca2+イメージング法で、細胞内Ca2+トランジエント、およびCa2+スパークの異常の有無を検討する。⑤またextracellular flux analyzerにより、細胞の解糖系、糖酸化能、脂肪酸化能、ミトコンドリアH+リーク、ミトコンドリア最大呼吸能の異常の有無を検討する。(D) 以上を総合し、哺乳類心筋の生下後の発達分化に及ぼす、gp130の機能的意義を明らかにする。
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