研究実績の概要 |
腎疾患の一つ, 有性遺伝性の巣状分節性糸球体硬化症(focal segmental glomerulosclerosis, FSGS)において受容体作動性Ca2+チャネル,TRPC6に変異があることが報告されている。然しながらTRPC6変異と病態発症メカニズムの関連には不明な点が多く,詳細な解析が求められている。 本研究ではTRPC6の分子基盤を明確にする為,カルシウム結合タンパク質calmodulinやTRPC6のcoiled-coil領域によるCa2+依存的不活性化(Ca2+-dependent inactivation: CDI)の関与を検討した。 その結果, CDIの発生にはTRPC6とcalmodulinの両房構造による複合体形成と,TRPC6のcoiled-coil領域による近接,集合化が必須である知見を得た。 本構造機能的知見をもとにFSGS型TRPC6を電気生理学的に解析した。 実施した5種類全ての変異体においてCDIの遅延を認めた(HEK293細胞での解析)。 Inside-outの実験からCDIが消失していることを再確認した。 FSGS型TRPC6のcoiled-coil領域の集合体形成について蛍光エネルギー移動により解析したところ,野生型に比べFSGS型は集合体形成に変化が生じていた。 FSGS型TRPCチャネルではcoiled-coilを介した集合体形成異常がCDIの遅延に関連することを見出した。 同様の実験を腎臓糸球体上皮細胞(培養型ポドサイト)で実施した。FSGS型TRPC6チャネルやcalmodulinの変異体を発現させると,持続性Ca2+流入が惹起され,アクチンフィラメントの形成異常が生じることを確認した。 以上,FSGS変異型TRPC6チャネルにおけるCDI機構破綻と機能亢進(Gain-of-Fucntion),ポドサイト細胞障害の関連性を明らかにした。
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