研究課題/領域番号 |
18K06876
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
貝塚 拓 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 助教 (00435926)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | てんかん / タンパク質翻訳 / タンパク質合成 / 下垂体前葉ホルモン |
研究実績の概要 |
申請者はこれまでにタンパク質翻訳因子をコードするEEF1D遺伝子のスプライシングバリアントであるeEF1BδLの欠損マウスが聴原性てんかんを引き起こすことを見い出している。そこで本研究ではeEF1BδLの欠損が如何にてんかん発作を引き起こすのか明らかにすることを目的とし、他のタンパク質翻訳因子群の発現レベルや複合体形成、タンパク質合成効率および下垂体遺伝子発現レベルについて解析している。令和元年度では具体的に以下の成果が得られた。 1)野生型及びeEF1BδL欠損マウスの脳総溶解物について抗eEF1Bδ抗体(全てのバリアントに反応する)により免疫沈降を行なったところ、野生型では測定した既知のeEF1複合体の構成因子全てが共沈降したが、欠損マウスでは一部の構成因子の共沈降が減少していた。このことは、脳ではeEF1BδLは一部の構成因子に対し、他のバリアントよりも優位的に相互作用していることが示唆された。 2)1)の結果とeEF1BδLは細胞核に局在する知見から、eEF1BδLは細胞核でeEF1複合体の構成因子と相互作用するか否かについて調べるために、eEF1BδL を発現するNeuro-2a細胞を細胞質と細胞核に分画し、それぞれeEF1複合体の構成因子の抗体で免疫沈降を行なったところ、一部の構成因子の免疫沈降物にeEF1BδLが検出された。このことはeEF1BδLは細胞核でeEF1複合体の一部の構成因子と相互作用することが示唆された。 以上の成果はeEF1BδL欠損マウスの脳内で起こりうる現象を反映しており、上述の目的に近づくものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度には、研究計画に沿った実験と一部計画とは異なる実験で重要な知見が得られた。それは、ノンカノニカルなeEF1BδLも細胞質及び核内でeEF1複合体の構成因子と相互作用し、カノニカルなバリアントeEF1Bδ1よりも優位であること、そのためeEF1BδL欠損マウスではeEF1複合体の構成が変化していることである。これらの結果はeEF1BδL欠損マウスではeEF1複合体の構成が撹乱されている可能性を示唆する。推測の域を超えないが、そのことがタンパク質合成効率の亢進を引き起こし、マウス個体として聴原性発作を引き起こしているのかも知れない。以上の知見は本研究の目的に近づくものであり、本研究はおおむね順調に進んでいると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
今後も申請書に記載の「研究の目的」に向かって以下の研究を遂行する。令和元年度に一部「研究計画」に記載していない実験で重要な知見が得られたため、新たに3)~5)の実験を行なう。 1)タンパク質合成効率への影響について、具体的にどのタンパク質合成が変化しているかについて、タンパク質合成時にPuromycinが取り込まれたタンパク質を免疫沈降しマススペクトロメトリーにより同定する。2)インビボsiRNAを用いて、てんかん発作に対するeEF1Bδ発現抑制効果を調べる。3)eEF1BδLの核内機能(転写促進作用)に対するeEF1ファミリーの役割について、それぞれのsiRNAを用いて解析する。4)クロマチン免疫沈降法を用いてeEF1ファミリーがeEF1BδLの既知のゲノム結合領域に相互作用するか否かを調べる。5)eEF1BδL欠損マウスの脳におけるeEF1複合体の構成状態を明らかにするための検証実験として、各構成因子のタグ付きタンパク質発現系を用いたAffinity-IP法で検証する。 以上の研究により、欠損マウスで聴原性てんかんが何故起こるのか、その分子メカニズムを解明し、学術雑誌に発表する。
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