研究課題/領域番号 |
18K06878
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
小比類巻 生 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (40548905)
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研究分担者 |
照井 貴子 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (10366247)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | サルコメア / 興奮収縮連関 / 心筋 / in vivoイメージング |
研究実績の概要 |
本研究では、申請者らが独自に開発した心筋イメージング技術を駆使してマウスin vivo心臓の各部位から心筋細胞の膜電位、細胞内Ca2+濃度、サルコメアの動的情報を 高精度・リアルタイムに抽出し、細胞レベルでの興奮収縮連関と心臓のマクロ機能との関連をナノスケールで、かつ系統的に解明する。そこに立脚して「in vivo興奮収縮連関」について正常心筋と病態心筋(拡張型心筋症、肥大型心筋症、異型狭心症)の差異を明らかにすることにより、心疾患を生理学的分子論に基づいて定量化・明確化することを目標としている。 本年度は、これまで蓄積してきたin vivoサルコメア動態の解析作業を進め、拍動中の心筋細胞内の個々のサルコメアの動態には多様性があり、一方で筋原線維中のサルコメア同士が協働して動くことと心臓機能とが互いに関係していることを発見した。生理学的条件下で拍動しているマウス心臓内の同一筋原線維上の個々の単一サルコメアのうち、60~70%は筋原線維全体の収縮弛緩と同調している。他方、残りの30~40%は非同調であることが明らかになった。このことは「筋原線維内のサルコメアは全てが一斉に収縮弛緩する」という従来のモデルに一石を投じる発見である。また、同調しているサルコメアの割合は、左心室圧が低下するに従って減少するため、サルコメアの恊働性と心臓機能の間には互いに関わりがあることが示唆された。この成果はすでに論文にまとめて投稿し、現在出版に向けた改訂作業中である。 さらに、膜染色試薬(CellMask)と低倍のレンズを活用することにより、in vivoにおいて広い範囲の心筋細胞の動態を観察し、マウスin vivoでの細胞動態解析を行った。この手法と膜電位指示薬(FluoVolt等)を組み合わせてin vivoでの細胞動態と膜電位の関係を正常および病態心臓で観察する手法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ナノレベルin vivo興奮収縮連関解析のための実験条件を詳細に検討した。前年に作成したα-Actinin2-TagRFP発現アデノウイルスベクターの増幅・精製とマウスへの投与条件の最適化を行った。また、従来から使用しているα-Actinin-AcGFP発現アデノウイルスベクターとの2重感染による2種類の蛍光タンパク質の発現がin vivoイメージングに対して及ぼす影響を調査した。並行してアデノウイルスベクター投与の為に行われる手術がin vivoイメージングに対して及ぼす影響をマウス用エコー装置を使って調査することにより、ベクター投与のための手術手技は後日のメージング実験に影響を与えないことを確認し、実験条件を決定と動物実験計画の策定を完了した。 しかしながら本年度は、新型コロナウイルス感染症蔓延防止措置による研究施設の使用制限のため、手術後数日の飼育が必要な動物実験やiPS由来心筋細胞の分化と維持が困難になったことから、実験計画を一部変更した。ウイルスベクターを使用する実験の代わりに膜染色試薬・膜電位指示薬を使用し、正常および拡張型心筋症(DCM)マウスの細胞動態および膜電位動態を前年に導入した2光路系を用いてin vivoで同時ライブイメージングする手法を確立した。それとは別に、正常および悪性高熱症モデルマウスから単離した筋細胞に蛍光Ca2+指示薬(Cal-520)を導入し、IRレーザによる熱パルスを照射することにより、熱による筋細胞内のCa2+濃度の上昇を観察することに成功した。この成果は論文投稿中である。 やむを得ない事情により研究計画の一部を変更したが、in vivoイメージングによる生きた心臓内での細胞およびCa2+、膜電位の同時計測が可能なin vivoイメージングシステムを確立し、データの取得を始めており、研究計画は概ね順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
研究施設の使用制限が解除に伴い、当初の計画に従ってマウスin vivoでのサルコメア動態とCa2+, 膜電位等の同時イメージングを正常および病態マウスを用いて行う。得られたナノスケールでの動態とマクロ情報を組み合わせ、心疾患を生理学的分子論に基づいて定量化・明確化する。 具体的には、(1)トロポニンTに変異 (ΔK210)を有する拡張型心筋症(DCM)モデルマウスを用いて、サルコメアのみならず膜電位や細胞内Ca2+イオン情報を詳細に調べ、突然死の原因をin vivoで、かつ分子論的に明らかにする。(2)同じくトロポニンTに変異(ΔE160)を有する肥大型心筋症(HCM)モデルマウスにおいて、in vivo興奮収縮連関にどのような変化が生じているのかを定量化する。上記2種の心疾患モデルマウスは既に共同研究者から提供されているので、速やかに実験に取りかかる。そのほか、(3)冠動脈入口部にメサコリンを注入することにより作成する冠動脈攣縮性の異型狭心症モデルマウスを使用して、冠動脈の攣縮が拍動リズムの破綻がどのように引き起こすのかを、心臓各部位の心筋細胞膜の電位や細胞内μm領域でのCa2+濃度変化、それらが周辺の心筋細胞にどのように伝搬していくかを調べることによって解き明かしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス蔓延防止措置による研究施設の使用制限および研究用消耗品と実験機器の流通の滞りにより、当初の計画よりも予算消化が遅れたため次年度使用額が生じた。
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