研究課題/領域番号 |
18K06879
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
石井 寛高 日本医科大学, 医学部, 准教授 (20445810)
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研究分担者 |
服部 裕次郎 日本医科大学, 医学部, 講師 (40528436)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | エストロゲン / エストロゲン受容体 / 生殖内分泌 / ホルモン感受性腫瘍 / 乳がん / 内分泌耐性 / 化学療法耐性 |
研究実績の概要 |
2019年度に(a) C末端欠損型ESR1アイソフォームがエストロゲン応答配列(ERE)を持つプロモーターを恒常的に活性化させるだけでなく、AP-1やSp-1などのnon-EREプロモーターを恒常的に活性化させること、さらに、その恒常的活性化がERアンタゴニスト耐性を示すことを発見した。また、エストロゲン受容体β(estrogen receptor β, ERβ; ESR2)研究は、これまで適切な抗体が存在しなかったことで迷走していたが、(b)抗ヒトESR2モノクローナル抗体であるPPZ0506が齧歯類ESR2に対して特異的に反応することを発見し、齧歯類ESR2タンパク質の発現局在の同定に道筋をつけた。 2020年度は(a)、(b)の知見をもとに研究をさらに進展させた。(a)の知見をもとに(1) C末端欠損型ESR1アイソフォームのnon-EREプロモーターに対する構造-転写活性化連関の解析が進行中である。現在、この解析からC末端欠損型ESR1アイソフォームが以前報告したEREプロモーターに対する構造-転写活性化連関とは異なる転写活性化プロファイルを示すことが示唆されている。また、(b)の知見をもとに(2)免疫組織化学染色法を用いたラットESR2タンパク質の局在解析を最適化し、真のラットESR2タンパク質発現局在を同定した。この解析過程においてヒトとラットESR2で発現パターンが著しく異なることが判明し、これまでのESR2研究で顧みられることがなかったESR2発現の種差が明確化された。さらに、(3)新規ヒトC末端欠損型ESR2アイソフォームを同定したことで、C末端欠損型ESR1アイソフォームだけでなく、C末端欠損型ESR2アイソフォームの解析も可能となり、研究にさらなる広がりがみられた。この他に、(4)ヒトC末端欠損型ESR1アイソフォーム発現の定量解析系を樹立し、実際にヒト非機能性下垂体腺腫を用いてC末端欠損型ESR1アイソフォームの定量解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、2019年度に得られた知見をもとにC末端欠損型ESR1アイソフォームの転写活性化プロファイル解析をさらに進展させた。 C末端欠損型ESR1アイソフォームがnon-ERE経路を活性化することを見出し、その発見をもとにC末端欠損型ESR1アイソフォームのnon-EREプロモーター活性化の構造-転写活性化連関を解析中である。以前報告したEREプロモーター活性化の構造-転写活性化連関とは異なる転写活性化プロファイルが得られており、C末端欠損型ESR1アイソフォームの転写活性化能の複雑性が示唆されている。 また、2019年度にPPZ0506抗体が齧歯類ESR2の検出に使用できることを発見したが、2020年度は、免疫組織化学染色法を用いたラットESR2タンパク質の局在解析を最適化し、真のラットESR2タンパク質の発現局在を同定した。さらに、新規ヒトC末端欠損型ESR2アイソフォームを同定したことで、C末端欠損型ESR1アイソフォームだけでなく、C末端欠損型ESR2アイソフォームの解析も可能となった。 ヒトC末端欠損型ESR1アイソフォーム発現の定量解析系を樹立し、実際にヒト非機能性下垂体腺腫を用いてC末端欠損型ESR1アイソフォームの定量解析を可能とした。ヒト非機能性下垂体腺腫では、C末端欠損型ESR1アイソフォームの十分な発現誘導を観察できなかったが、この結果により、腫瘍ゲノム内で引き起こされるESR1遺伝子のゲノム構造再構成がC末端欠損型ESR1アイソフォームの発現誘導機構として働く可能性がより濃厚となった。 以上より、2020年度は、C末端欠損型ESR1アイソフォームについて2019年度の結果をもとに着実に研究成果を積み重ねており、さらに、ESR2アイソフォームの解析へと研究の可能性を広げることができた。そのため、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は非機能性下垂体腺腫を用いてESR1及びESR2の発現プロファイルを同定し、さらに、C末端欠損型ESR1アイソフォームの定量発現解析系を樹立し、非機能性下垂体腺腫でのESR1アイソフォームの発現定量を行った。しかし、非機能性下垂体腺腫でのC末端欠損型ESR1アイソフォームの発現量は野生型ESR1と比較し、2桁ほど低くESR1アイソフォームの発現誘導を非機能性下垂体腺腫では確認できなかった。前立腺がんなどのアンドロゲン感受性がんとC末端欠損型アンドロゲン受容体アイソフォームに関する研究から腫瘍ゲノム中で引き起こされるゲノム構造再構成がC末端欠損型ESR1アイソフォームの発現誘導機構として働く可能性が示唆される。そのため、今後は、悪性化した乳がんでのC末端欠損型ESR1アイソフォームの発現プロファイルとESR1遺伝子の構造変化を解析する必要がある。 近年、ホルモン感受性腫瘍は上皮間葉転換を引き起こすことで、細胞接着能の喪失と遊走・浸潤能の獲得を行い悪性化することが報告されている。C末端欠損型ESR1アイソフォームは、ERE・non-ERE経路双方を恒常的に活性化するため、野生型ESR1の活性化とは異なる遺伝子カスケードを駆動し、上皮間葉転換を引き起こしている可能性がある。そのため、C末端欠損型ESR1アイソフォームのERE・non-EREプロモーターに対する構造-転写活性化連関を同定し、それらアイソフォームが特異的に駆動する遺伝子発現カスケードの詳細な解析が必要である。 研究計画の最終年度である2021年度は、(A) 悪性化した乳がん・子宮内膜がんでのC末端欠損型ESR1アイソフォームの発現プロファイルとESR1遺伝子の構造変化の解析、(B) C末端欠損型ESR1アイソフォームのnon-EREプロモーターに対する構造-転写活性化連関の同定、(C) C末端欠損型ESR1アイソフォームが制御する遺伝子発現カスケードの解析を行い、本研究をまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文掲載料・早期公開料の請求が2月に行われる予定であったが、印刷の遅延によって請求が4月となったことで論文掲載料・早期公開料分が未使用額となった。 そのため、未使用額は4月の論文掲載料・早期公開料の請求に伴い、論文掲載料・早期公開料として使用予定である。
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