研究課題/領域番号 |
18K06880
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
濱田 知宏 日本医科大学, 医学部, 助教 (90312058)
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研究分担者 |
佐久間 康夫 東京医療学院大学, 保健医療学部, 教授 (70094307)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 思春期 / 性指向性 / 視索前野性的二型核 / 分界条床核 / エストロゲン |
研究実績の概要 |
思春期は生殖内分泌系が大きく変化する時期で、性別違和を含めた特有の精神疾患が問題となる時期とも一致している。一方で脳には解剖学的な性差があり、例えば視索前野性的二型核や分界条床核主部は雄で大きい神経核であるが、出生前後に一過性に放出される性ホルモンによって、その基盤が形成されることが知られている。心の性は生物学的な性と異なり、雄と雌の間に多種多様な色合いが存在する。ヒトの心の性は性自認、性的役割、性的指向の成分に概念化され、その形成も脳の解剖学的な性差が関係していると考えられているが、その詳細は不明である。本研究は、心の性のモデルとしてラットの性指向性に着目し、性差のある領域を緑色蛍光タンパク(GFP)で特異的に可視化した動物を活用することで、心の性を決定する神経回路は性差のある領域で構成され、その回路形成および機能発現には思春期のエストロゲンが重要であるという仮説を検証するものである。 性指向性形成に対する思春期エストロゲンの役割は、研究分担者らが開発した行動実験装置を用いて検討した。ラットの場合、性指向性は主として匂い刺激によりもたらされ、発情雌は通常、成熟雄の匂いに指向性を示すが、思春期前に卵巣摘除すると、ホルモン処置で発情させても成熟雄への指向性を示さなかった。一方で卵巣摘出後、思春期を模倣する形でホルモン投与をすると、成熟雄への指向性を示し、性指向性に関わる神経回路形成に思春期のエストロゲンが必要であることが示唆された。現在GFPでラベルされた性差のある領域に着目し、性指向性発現時に活動しているかどうかを、神経活動の指標であるcFos発現について免疫組織学的に検討し、それらを含む神経回路について、蛍光トレーサー脳内微小注入による形態学的検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
性指向性に関する思春期ホルモン環境の影響について、行動学的な研究成果が得られ、今後の研究計画の基盤に寄与するものと考えている。神経活動の指標としてcFosタンパクの免疫染色を実施する予定であったが、これまで使用していた抗体の販売が終了し、それに代わる抗体を探すのに時間がかかったため、結果を得るに至らなかった。一方で蛍光トレーサー脳内微小注入による結果が得られ、解剖学的性差の存在する神経核同士の神経回路が観察されている。以上のことから「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策としては、当初の研究実施計画に沿うように進めていくつもりである。すなわち「思春期のエストロゲンにより、分界条床核から投射を受ける視索前野性的二型核ニューロン樹状突起のスパインが増加し、神経伝達効率が上昇することが、性指向性神経回路機能発現に寄与する」という作業仮説を検証すべく、以下の研究を実施する。 性指向性を司る機能的神経回路として、分界条床核から視索前野性的二型核への投射が重要であるという仮説を検討するために、両神経核のGFP発現細胞を観察対象として、性指向性発現時のcFos発現(神経細胞活性化指標)やスパイン形成、脳定位手術による蛍光トレーサー微小注入および各種神経伝達物質やその受容体の免疫組織学的な研究を組み合わせ、形態学的な検討を行う。思春期エストロゲン暴露の有無での比較検討を基本とする。スパイン形成に関しては脳スライス培養とタイムラプスイメージングを用い、エストロゲンによるスパイン形成過程を可視化する。なおcFos発現に伴って赤色蛍光タンパクを発現するトランスジェニックラットと、性差のある領域をGFPで特異的に可視化したトランスジェニックラットの交配により得られたダブルトランスジェニックラットを用いることで、神経細胞の活性化もリアルタイムに観察することも計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文発表が遅れたために次年度に繰り越す使用額が生じた。 論文投稿料で使用する予定である。
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