研究課題/領域番号 |
18K06886
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吉川 雄朗 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (70506633)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 攻撃性 / ヒスタミン |
研究実績の概要 |
ヒスタミンはアレルギーや胃酸分泌に関わる活性アミンですが、脳内では神経伝達物質として機能しています。我々はヒスタミンを分解する酵素を欠損させたマウスを解析した結果から、ヒスタミンが脳内で攻撃性にも関わる事を明らかに致しました。しかし、どのような機構でヒスタミンが攻撃性を制御しているのかについては不明のままでした。平成30年度は、アデノ随伴ウイルスを用いてヒスタミン合成酵素を減少させたマウスを作製し、これらのマウスでは、脳内のヒスタミンが減少することを確認致しました。aggressive response meterと呼ばれる攻撃性を評価できる器械を用いて評価したところ、コントロールマウスと比較してヒスタミンが減少したマウスでは攻撃性が低下していました。また遺伝薬理学的手法(designer receptor exclusively activated by designer drug, DREADD)を用いて、脳内ヒスタミンを短時間だけ増加させることができるマウスも作製致しました。このマウスではヒスタミン増加に伴い、攻撃性が増強されることが示されました。以上のことから、脳内ヒスタミン量が攻撃性を規定する重要な因子であることが明らかとなりました。次にアストロサイトあるいは神経細胞特異的にヒスタミンH1受容体を欠損させたマウスを用いて攻撃性について評価したところ、アストロサイト特異的にヒスタミンH1受容体を欠損させたマウスで攻撃性が増加することが明らかとなりました。従って、アストロサイトに発現するH1受容体は、攻撃性を減弱させる機能を有していると考えられました。一方で、神経細胞特異的にヒスタミンH1受容体を欠損させたマウスでは、攻撃性に変化は認められませんでした。また我々はこれまでにヒスタミンH2受容体が攻撃性を促進させることを明らかにしており、ヒスタミンH1受容体とH2受容体は攻撃性に関しては異なる関与をしていることが示されました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでヒスタミン代謝酵素であるhistmaine N-methyltransferase(HNMT)のホモ欠損マウスを用いて攻撃性との関連を報告してきた。HNMTノックアウトマウスでは生直後からヒスタミン濃度が上昇していることから、脳の発生や発達に変化が出たことが、攻撃性に繋がった可能性が考えられた。そこで今回はアデノ随伴ウイルスを用いて、8週齢以降でヒスタミン濃度を増加、あるいは減少させたマウスを作製し攻撃性との関連を検討した。その結果、成獣となった後にヒスタミン濃度を変化させた場合でも攻撃性に変化が生じることが示された。また以前からヒスタミンH1受容体とH2受容体が攻撃性に関わる可能性が示されており、今回我々はアストロサイトあるいはニューロン特異的にH1受容体を欠損させたマウスを解析することで、どちらの細胞が攻撃性に関わっているのかを検討した。その結果、アストロサイト特異的H1受容体欠損マウスでのみ、攻撃性が増強されることが明らかと成り、アストロサイトH1受容体と攻撃性との関連を示す事が出来た。
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今後の研究の推進方策 |
ヒスタミン代謝酵素(histamine N-methyltransferase, HNMT)のfloxマウスを既に作製しており、このマウスの脳局所にCre recombinaseを発現するアデノ随伴ウイルスを感染させることで、脳部位特異的にヒスタミンを増加させるマウスを作製する。AAVの注入については既に十分の経験があり、問題なく施行できると考えている。これにより、攻撃性に関わる扁桃体や視床下部、中脳水道周辺灰白質、分界条床核などの内、どの部位がヒスタミンによる攻撃性を司っているのかを明らかにしたいと考えている。
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