研究課題/領域番号 |
18K06891
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
秀 和泉 広島大学, 医系科学研究科(医), 講師 (20253073)
|
研究分担者 |
酒井 規雄 広島大学, 医系科学研究科(医), 教授 (70263407)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | ミクログリア / 貪食 / P2Y2受容体 / AXL受容体 |
研究実績の概要 |
ミクログリアにおける死細胞の除去は脳の恒常性維持において極めて重要であり、また、ミクログリアによるシナプス剪定も正常なシナプス回路を構築するために必須である。しかし近年、ミクログリアの誤作動による過剰なシナプス貪食が神経回路の異常や神経変性を引き起こし病態形成に深く関わることが明らかにされてきた。ミクログリアは細胞表面のホスファチジルセリンを目印として除去すべき死細胞やシナプスを選定しているが、その機構の一つに関与するのがTAM貪食受容体である。TAM受容体には頭文字が表すとおりTyro、AXL、MERの3つのサブタイプがあり、このうちミクログリアにはAXLとMERが発現している。初代培養ミクログリアをLPSで刺激するとMERの発現は著明に減少し、一方AXLの発現は有意に上昇したことから、炎症時には生理的環境下で機能していたMERに替わりAXLがより重要な役割を果たすことが示された。これまでに、LPS刺激ミクログリアによる死細胞やニューロンの貪食はP2Y2受容体拮抗薬(スラミン、AR-C118925)により抑制されることから、P2Y2受容体が重要である可能性を示してきた。今回さらに、P2Y2受容体拮抗薬によりLPS刺激によるAXL発現亢進が著しく抑制されることを見出し、P2Y2受容体は少なくともAXLの発現促進に関わることにより死細胞およびニューロンの貪食を調節する可能性が示された。また、P2Y2受容体遮断は、LPS刺激によるiNOS、TNF-a、CXCL10などの炎症性メディエーターの産生を抑制し、一方、抗炎症性サイトカインIL-10はむしろ発現亢進することを見出した。IL-10はミクログリアの貪食を抑制し、アルツハイマー病の病態にも関与することが報告されており、P2Y2受容体を介したIL-10の発現抑制も効率的な貪食を引き起こすための機序の一つかもしれない。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高貪食能ミクログリアがP2Y2受容体を介して死細胞やニューロンの貪食を制御する機序として、貪食受容体AXLの発現維持に関与する可能性が明らかとなった。また、P2Y2受容体は、iNOS、TNF-a、CXCL10などの炎症性サイトカインの産生を介して炎症の惹起に深く関与すること、また、貪食を抑制する抗炎症性サイトカインIL-10の発現も抑制することが示された。これらの成果は、高貪食能ミクログリアによる死細胞およびニューロンの貪食制御におけるP2Y2受容体を介した新しいメカニズムを明らかにする知見であることから、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
MER受容体により認識されるホスファチジルセリンとならんで、弱ったシナプスを認識し取り込むメカニズムとして補体系が注目されている。弱ったシナプスには補体C3が沈着し、ミクログリアはC3受容体であるCR3を介してC3標識ニューロンを貪食する。それらのダウンストリームシグナルにはアクチン骨格制御因子であるチロシンキナーゼPYK2がある。PYK2はアルツハイマー病の危険因子の一つでもあり、またP2Y2受容体シグナルの下流にも存在する。P2Y2受容体欠損もまたアルツハイマー病発症を促進することが知られている。これらの知見を念頭に、高貪食能ミクログリアによる貪食に関わる細胞骨格制御の機序の解明を試みる。さらに、ミクログリアによる過剰なニューロン貪食は自閉症の病態に関与すること、P2Y2に親和性を持つスラミンに自閉症の治療効果があることから、病態モデルにおけるP2Y2受容体と病態形成の関連性についても検討を行う予定である。
|