ミクログリアは死細胞を貪食除去することにより中枢神経系の恒常性維持に働くが、炎症時には過剰な貪食を引き起こし多くの神経疾患の病態に関与することが明らかにされつつある。これまでに研究代表者は、ミクログリアは炎症モデルであるLPS刺激を受けると活発に死細胞を貪食することを見出し、この反応にはP2Y2受容体が関与することを報告してきた。また、P2Y2受容体拮抗薬による死細胞貪食の抑制効果は、非刺激時と比較してLPS刺激時に特に顕著に認められたことから、P2Y2受容体は炎症時の死細胞貪食に特に重要な役割を果たす可能性が示された。免疫蛍光染色によりP2Y2受容体の細胞内局在を検討した結果、非刺激ミクログリアではP2Y2受容体は細胞内部に多く存在するが、LPS刺激を受けると形質膜に移行する様子が観察された。したがって、LPS刺激はP2Y2受容体の形質膜へのトラフィッキングを引き起こし、細胞表面でATPやUTPの刺激を受容して炎症時の激しい貪食を引き起こすことが示唆された。さらに、P2Y2受容体から貪食へのシグナルの関与について検討を行った結果、LPS刺激によりP2Y2受容体の下流にあるプロリンリッチチロシンキナーゼ(PYK2)が活性化され、引き起こされるタンパク質リン酸化を介して炎症性貪食受容体AXLの発現亢進が引き起こされることが明らかとなった。本研究により、炎症時の死細胞貪食におけるP2Y2受容体の新しい役割とその活性化機序が明らかとなり、P2Y2受容体は貪食が関わる炎症性神経疾患の新規治療標的となりうる可能性が示された。
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