研究実績の概要 |
オピオイド鎮痛薬は慢性疼痛の重要な治療薬であるが、鎮痛耐性発現がその有効利用を困難にしている。2 種類のオピオイド受容体からなる MOPr-DOPr ヘテロ二量体の形成が鎮痛耐性発現に関わるとされているが、その発現機構は未解明である。本研究では、MOPr-DOPr ヘテロ二量体とその制御分子 RTP4 を介する鎮痛耐性形成機構を解明することを目的としている。 これまでに、In vivo における 脳内 RTP4 の有無がオピオイド耐性形成へ及ぼす影響の解明に取り組んだ。すでに、RTP4 floxed マウスを用いて Cre 発現アデノ随伴ウイルス (AAV) あるいは Control AAV を、両側の視床下部室傍核 (PVN) 領域に処置し、その後モルヒネ 10 mg/kg を10日間反復投与したところ、Control 群で認められた鎮痛効果の減弱(鎮痛耐性形成)が、Cre-AAV 群では部分的ではあるが、有意に抑制されることを示唆するデータが得られた。 さらに、モルヒネ反復投与後 4, 8, 11 日目 の各脳領域(前頭前皮質、皮質、海馬、線条体、視床、視床下部、中脳、橋、延髄、小脳、脊髄)における RTP4 mRNA 発現変動について解析をした。その結果、いずれの各脳領域でも対照群とモルヒネ投与群の間に P<0.05 となる有意な RTP4 mRNA 発現量変化は認められなかったものの、前頭前皮質、海馬、線条体、視床、中脳、橋、脊髄、および視床下部において RTP4 の増加傾向が認められた。 本研究より、視床下部 PVN 領域の RTP4 が部分的ではあるが鎮痛耐性形成へ関与することが示唆された。ただし、RTP4 は多くの脳領域で発現変動することも示唆され、そうした脳領域が複合的に RTP4 を介して鎮痛耐性形成を生じさせる可能性が考えられた。
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