研究実績の概要 |
全身における病原体感染検知システムは不明点が多い。我々は骨格筋線維および骨格筋前駆細胞が病原体成分に応答しサイトカイン放出を起こすことを明らかにしており、病原体検知システムとしての骨格筋の重要性を検討している。感染症死亡率には性差があることが知られており、女性の発症率・死亡率は男性と比較して低い。最近、骨格筋のPAMPs応答シグナル経路を欠損させたマウスにおいて雌のみで敗血症生存率が低下することが報告され、骨格筋のPAMPs応答が敗血症性差の鍵を握る可能性がある。本研究では、性差要因の一つである性ホルモンの骨格筋炎症応答に対する作用を検討している。 研究開始初年度(平成30年度)に性ホルモン17βエストラジオール(E2)が、マウスC2C12筋芽細胞由来骨格筋管細胞(C2C12-MTs)におけるLPS誘発性筋萎縮と炎症性サイトカイン産生抑制を見出し(平成30年度)、次にC57BL/6JマウスにおいてE2が敗血症誘発性筋力低下を緩和することを見出した(令和元年度)。骨格筋におけるE2の抗炎症機構の解析を始めた。令和2年度の研究にて薬理学的解析によりエストロゲン受容体(ERα, ERβ, GPER)の関与が否定されたので、令和3年度はストレス抵抗性遺伝子調節転写因子であるNrf2の関与およびLPS誘発性呼吸障害とミトコンドリア障害に対するE2の作用について検討した。E2がNrf2を活性化させることで、骨格筋におけるLPS誘発性炎症を抑制すると仮説をたてたが、C2C12-MTsにおいてE2投与によるNrf2により転写調節をうけるHo-1, Nqo-1の発現上昇はおこらず、この制御機構の関与は否定された。次にLPSによる呼吸障害へのE2の作用を検討するため、細胞内ATP濃度の変化を検討したが、LPSによる変化を見出すことは出来なかった。今年度研究結果から培養細胞をもちいた解析結果からは炎症応答機関としての骨格筋の機能へのE2の作用がクローズアップされた。
|