研究課題/領域番号 |
18K06900
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
西村 友宏 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 准教授 (40453518)
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研究分担者 |
野口 幸希 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 助教 (10803661)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 妊娠高血圧症候群 / 降圧剤 / アンジオテンシン受容体拮抗薬 / 胎盤透過性 |
研究実績の概要 |
前年度までに示されたIrbesartanの妊娠高血圧症の改善効果と低胎児毒性を機構論的に解明することに取り組んだ。Irbesartanの胎児血中濃度が母体血中濃度に比べて低くなる原因として胎盤透過性に方向性輸送があることが推定された。ラットを用いた胎盤灌流試験により胎児血から胎盤および母体方向への輸送(排出輸送)を検討したところ、Irbesartanの排出輸送はOrmesartanの排出輸送に対し有意に大きいことが示された。さらにIrbesartanの排出輸送に有機アニオン輸送系の関与が示された。ヒト血液胎盤関門の胎児血側細胞膜に局在する有機アニオン輸送タンパクとしてOATP2B1が知られる。ヒトOATP2B1の遺伝子強制発現細胞においてIrbesartanは顕著に輸送され、IrbesartanはOATP2B1の基質であることが示された。一方で、OrmesartanはOATP2B1では輸送されず、OrmesatanとIrbesartanの胎盤における透過性の差はOATP2B1による基質認識と輸送活性の差に起因することが推察された。OrmesartanとIrbesartanはどちらもアンジオテンシン受容体拮抗薬であり化学構造も類似しているが、両者のOATP2B1による基質認識が顕著に異なることが示されたことは同効薬の使い分けにおける機構論において重要な知見である。OATP1A2およびOATP2A1によるIrbesartan輸送試験ではこれらの輸送タンパクによる輸送活性は示されず、Irbesartan輸送への関与は少ないと考えられた。これらにより、IrbesartanがOrmesartanに比較して胎児移行性が低い要因の一部が示され、Irbesartanが低胎児毒性を示す要因であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においてはアンジオテンシン受容体拮抗薬の一部が妊娠高血圧症に有効である可能性を検証することを目的としており、候補薬剤の抽出、動物実験による薬効および毒性の検証、薬剤の胎児移行性とその機構論の解明の主要部分が示され、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果により今後解決すべき課題は、胎盤透過性およびその機構論における種差の解明である。Irbesartanの胎盤透過性はラット胎盤において低透過性が得られたのに対し、機構論解析で用いた遺伝子は入手可能性を優先しヒトOATP2B1を用いた。今後はラットでの遺伝子でも同様の結果が得られるかの検証が必要である。また、OrmesartanとIrbesartanでは胎児毒性に差があるとしているが、投与量依存性に関しては検討が不十分な点があるため、さらに実験を追加して検証することが必要である。最終年度にはこれらの点に関し解明したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は順調に進展しており、予備検討や再検討および研究の展開の修正などに伴う追加実験などが少なかったため、消耗品費を低く抑えることができた。次年度は最終年度として残された検討課題を実験にて解明する費用として残額を利用する予定である。
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