前年までの解析により、妊娠ラットにおいてOlmesartanは胎児移行性が高いこと、胎児発育不全を呈することを示し、またIrbesartanは胎児移行性が低いこと、胎児発育不全を呈さないことを示した。しかしながら、胎児毒性は投与量依存性が予測されるため、ARB各薬物の胎児移行性と胎児発育不全の関係は未解明であった。そこで、ARBによるラット胎児発育不全は、ARBの薬理効果であるAT1受容体への阻害効果に基づき胎児において薬理効果を発現する血中濃度において胎児発育不全を示すかを明らかにするために検討を行った。前年以前より投与量を減量し、OlmesartanをL-NAME誘発性妊娠高血圧ラットに1 mg/kg/dayで投与したところ、高血圧を有意に改善し、この投与量条件においてOlmesartanの母体血漿中濃度は薬理効果を示すのに十分であることが示されたが、この条件において胎児発育不全は観察されないことがわかった。前年までの検討により、Olmesartanの胎児血漿中濃度は母体血漿中濃度と同程度であることがわかっているため、AT1受容体への薬理活性と胎児発育不全は直接的な関係性が少ないことが示唆された。また、Irbesartanの胎盤透過に関与するトランスポーターとして、ヒトOATP2B1の関与が前年までに示唆されたが、今年度においては、ラットOATP2B1も同様の機能を示すかを検討した。予測と異なり、ラットOATP2B1によるIrbesartan輸送は観察されなかった。胎児血漿から母体血漿への輸送において、飽和性がありトランスポーター介在輸送が推定されるため、ラットにおいてはOATP2B1と異なるトランスポーターが関与することが推察された。
|