研究課題/領域番号 |
18K06907
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
石兼 真 産業医科大学, 医学部, 助教 (40470190)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アンギオテンII / 癌転移 / 乳がん / 転移抑制薬 |
研究実績の概要 |
本邦の癌罹患率は高水準で推移しており、今後も高齢化に伴い患者数の増加が予想される。癌の進行に伴う多臓器転移は治療成績を大幅に低下させるため、癌転移抑制は余命を大幅に改善できる。マクロ転移した癌細胞を切除することは技術的に不可能であることから、転移抑制薬の開発が求められている。これまでに我々は、血圧調節に関与するレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系(RAAS)の中でも昇圧ペプチドであるアンジオテンシンII(Ang II)が、癌細胞と血管内皮細胞の接着を増加させることで血行性癌転移の形成を促進させる可能性があることを報告している。 本研究では、細胞接着後のステップである癌細胞の組織内浸潤過程におけるAng IIの作用を明らかにすることで、癌転移形成におけるRAASの役割を解明し、“RAAS薬を用いた新規癌転移抑制療法の開発”へと発展させることを目標に研究を行った。 これまでの検討で、①マウス乳がん(4T1)自然転移モデルにおいて、Ang IIを持続投与したマウスでは、vehicle処理したマウスと比較してがん細胞の肺転移が増加することを明らかにした。また、Ang IIによる乳がん転移促進作用に対し、降圧薬のアンギオテンシン受容体拮抗薬のvalsartanは抑制効果を示すが、同じ降圧薬として用いられるカルシウム拮抗薬のamlodipineは転移抑制効果を有さないことを明らかにした。②培養条件下のマウス乳がん細胞(4T1)は、Ang II受容体を発現しておらず、in vitroにおける細胞増殖試験、細胞浸潤アッセイにおいてAng II処置による有意な変化は確認されなかった。一方、マウス生体内に移植した4T1細胞は、Ang II受容体を発現している可能性があり、in vitroとin vivoではAng IIによる反応性が異なることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ang II誘導性の高血圧マウスにおける乳がん自然肺転移の増悪に対し、アンギオテンシン受容体拮抗薬のvalsartan投与群ではvehicle投与群と比較して有意に肺転移コロニー数が低下した。一方、カルシウム拮抗薬のamlodipine投与群では血圧低下作用は確認されたが、Ang IIによる乳がん肺転移増加作用は抑制されなかった。これらの結果より、Ang IIによる乳がん肺転移増悪作用は血圧には依存していないことが明らかになった。また、フローサイトメトリーで分離した原発巣のGFP陽性4T1細胞がん細胞において、Ang II受容体の発現を確認できたが、血管内皮細胞やマクロファージの混入が示唆されたため、ソーティングの条件検討を進めており、メカニズム解明に向けた研究の進捗は順調であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
R1年度の結果をもとに、癌細胞-血管内皮細胞の接着後の浸潤過程におけるAng IIの作用について検討を進める。 (1)フローサイトメーターを用いたソーティングにより生体内移植した4T1細胞を回収し(CD31、CD68陰性分画)、細胞増殖試験、細胞浸潤アッセイを行う。 (2)マウス肺より血管内皮細胞を分離・培養し、in vitroにおける癌細胞-血管内皮細胞の接着、浸潤に対するAng IIの作用や、上皮間葉転換関連因子の変動について評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
in vitroで細胞増殖試験や浸潤アッセイを行ったが、本研究に用いたがん細胞では受容体発現などが変化しており、研究内容を変更して検討を進めたため、当初計画より使用額が少なくなった。 生体内に移植した細胞では、培養条件下とは異なり、受容体の発現が誘導されている可能性があり、ソーティングによる細胞分離条件をより詳細に検討し、生体内より分取したがん細胞を用いた解析を進めるとともに、in vivoに近い条件をin vitroで再現してAng IIによる乳がん転移促進作用のメカニズム解析研究を進めるために使用する。
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