研究課題
リボソーム結合タンパク質であるGCN1L1はアミノ酸飢餓に応答してプロテインキナーゼであるGCN2を活性化し、翻訳開始因子eIF2αをリン酸化することで翻訳を抑制する。一方、転写因子であるATF4は選択的に翻訳が亢進し、アミノ酸合成・輸送に関わる遺伝子の発現を誘導する。この応答経路はミトコンドリアの機能異常によっても活性化され、ミトコンドリアの恒常性維持に関わる遺伝子群の発現を誘導することが明らかになったが、その活性化機構については不明な点が多い。GCN1L1-GCN2を介したミトコンドリアストレス応答を解明するため、GCN1L1をノックアウトしたHAP-1細胞を用いて、種々のミトコンドリアストレス誘導剤への応答を解析した。その結果、ミトコンドリアの翻訳を阻害するdoxycyclineによってATF4活性化が見られ、GCN1L1ノックアウト細胞では一部抑制されたが、継代が進むにつれ再現性が得られなくなった。GCN1L1 floxマウスの戻し交雑およびCre-ERT2マウスとの交配は問題なく進んでおり、タモキシフェン投与によるGCN1L1条件付きノックアウト(CKO)マウスにおけるGCN1L1のノックアウト効率をジェノタイピングPCRおよびウェスタンブロットで確認した。CKOマウスでは肝臓、小腸および大腸でGCN1L1が効率よくノックアウトされていることが分かった。また、CKOマウス作製後5~10日で有意な体重減少が見いだされ、各組織のH&E染色により、肝臓において空胞を伴う細胞障害が観察された。GCN1L1 flox::Cre-ERT2マウスから樹立したMEFを用いたin vitroでのノックアウトによりGCN1L1の発現抑制が見られ、アミノ酸飢餓によるATF4活性化も抑制されることが分かった。
3: やや遅れている
HAP-1細胞を用いた解析については再現性の問題で、ミトコンドリアストレスによるATF4活性化が複数の経路で補完されている可能性が考えられた。GCN1L1のRWDBDドメインを欠失したノックアウトマウス由来の胎児線維芽細胞(MEF)を用いた解析も進めているが、自然発生的に不死化細胞を樹立しているため、クローン化の差異も考えられるため、in vitroの実験系を変更して解析している。GCN1L1 CKOマウスの解析については、動物飼育施設の改装工事のため飼育スペースが制限されたものの、今のところ計画どおりに進んでおり、体重減少および肝障害について、アミノ酸飢餓応答やミトコンドリア機能異常について解析を進めている。
培養細胞を用いたミトコンドリアストレス経路およびGCN1L1のドメインの解析についてはRWDBD欠失MEFの初代培養にSV40 Large T antigenを発現させて不死化MEFを作成する。また、GCN1L1 flox::Cre-ERT2マウスから樹立したMEFをin vitroでノックアウトし、アミノ酸飢餓によるATF4活性化がCKO MEFで抑制されることを確認している。レンチウイルスによりGCN1L1を発現することでレスキューされるかについても進めており、野生型で有意な回復が見られればGCN1L1欠失変異体を作製して、アミノ酸飢餓およびミトコンドリアストレスへの応答を解析する。GCN1L1 CKOマウスについてはさらに匹数を増やして再現性を確認する。体重減少についてはCKOマウス作製後5日に顕著で、10日目に回復する傾向があるため、10日後に解剖する群と解析を継続する群を分けて、体重減少が一過的なものか確認する。肝障害についてはさらに別の染色法や各種障害マーカーの変動を解析することで原因や機序について解析を進める。
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PloS Genet.
巻: 16 ページ: e1008693
10.1371/journal.pgen.1008693