研究課題
本研究は、コアフコースと呼ばれる糖鎖構造を持った糖タンパク質のグライコフォームを標的としたがん研究である。その戦略として、コアフコース含有グライコフォームを特異的に認識する抗体を用いる。平成30年度は、はじめに、コアフコース修飾されたIgGを認識するモノクローナル抗体(抗コアフコシル化ヒトIgG抗体)について、その反応性を数種のヒトがん細胞株(HeLa、A549、DLD1、Ramos等)で解析した。ウエスタンブロッティングおよびフローサイトメトリーによる解析において、上皮系がん細胞株ではその反応が観察されなかったが、B細胞リンパ腫細胞株では反応が観察された。正常ヒト血清中のIgGとの比較により、B細胞リンパ腫細胞由来のIgGのコアフコースレベルは、正常ヒト血清中のIgGと異なることを示唆する結果が得られた。このことから、IgGのコアフコースはB細胞リンパ腫の進展と何らかの関係がある可能性が示唆された。B細胞リンパ腫細胞由来のIgGのコアフコースの機能を明らかにするため、コアフコースの形成に寄与するFUT8(α1,6-Fucosyltranserase)遺伝子をCRISPR/Cas9システムを用いてノックアウトした細胞亜株を樹立した。またFUT8遺伝子を発現ベクターを用いて過剰発現させた細胞亜株の作製を行なっている。また、コアフコース構造を豊富に発現するその他のヒトがん細胞株に対する腫瘍増殖抑制効果を検討している。一方で、Epidermal growth factor (EGF)受容体、α-fetoprotein(AFP)、Programmed cell death-1 (PD-1)等のコアフコースを特異的に認識する抗体の作製をめざし、FUT8遺伝子発現細胞を用いて、それらタンパク質のリコンビナント体の精製を行なっている。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究により、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体に反応性を示すがん細胞株を同定した。さらに、コアフコシル化IgGレベルが変化するリンパ腫を初めて見出している。また、IgGのコアフコースの機能を明らかにするため、FUT8遺伝子をノックアウトしたIgG産生細胞株を樹立した。その他のコアフコシル化タンパク質に対するモノクローナル抗体作製のため、リコンビナントタンパク質の精製を進めている。本研究は、特異的なグライコフォーム認識抗体を用いた新しいアプローチであり、これまでにそのような例はなく、本研究の成果は現在主流である抗体医薬の効果を大きく高める可能性を秘めている。本研究で今年度に得られた主な成果は論文としてはまだ未発表であるが、着実に結果が得られており、研究期間中での論文発表が可能であると考えられる。
IgGのコアフコースの機能を明らかにするため、FUT8遺伝子を欠損する、または安定的に過剰発現するB細胞リンパ腫細胞亜株を樹立する。FUT8遺伝子の発現量およびIgG上のコアフコース糖鎖の発現量の変動を種々のリンパ種で解析する。それら細胞株よりIgGを精製し、Fc受容体を発現する免疫細胞に対する作用を詳細に解析する。以上の解析により、コアフコシルIgGのがん細胞における発現制御メカニズムと機能について新たな知見が得られると考えられる。また、他のコアフコシル化タンパク質に対するモノクローナル抗体の作製を引き続き行う。さらに、がんと深く関わる種々の糖タンパク質について、コアフコシル化フォームと非コアフコシル化フォームでの機能や発現の違いを検証する。最終的には、コアフコースによって機能変動するこれら糖タンパク質のコアフコシル化フォームを特異的に認識する抗体をがん細胞やモデルマウスに適用することで、コアフコースを標的とした新しい治療法の開発をめざす。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 3件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 7件、 招待講演 1件) 図書 (2件)
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