膵臓ランゲルハンス(ラ)島のβ細胞(膵β細胞)は、血中ブドウ糖濃度に応じインスリンを分泌する。この膵β細胞に障害が生じるとインスリン分泌不全による耐糖能異常を経て糖尿病を発症する。近年、マウス膵β細胞に存在するヘパラン硫酸(HS)が膵β細胞機能の維持に関与することが示された。HSはコアタンパク質に結合したプロテオグリカンの形で存在しており、マウスの培養細胞を用いた研究から、インスリン分泌に関与するHSのコアタンパク質がシンデカン4(SDC4)であることが見出された。 本研究では、複数系統のマウス個体の膵β細胞におけるSDC4の役割を解析した。C57BL/6J(B6)系統の8週齢雄SDC4KOマウスは、ブドウ糖負荷試験においてインスリン分泌障害による耐糖能異常を呈した。一方、耐糖能に異常を示さないICR系統のSDC4KO雄マウスに、ストレプトゾトシン(STZ)を投与し緩徐進行性糖尿病を発症させたところ、KOマウスでは野生型に比し随時血糖上昇やインスリン分泌障害、β細胞数減少を呈した。 最終年度では、B6系統のSDC4KOマウスにおけるインスリン分泌障害の原因が、インスリン分泌機能構成因子や膵β細胞分化マーカーの遺伝子発現低下によることを見出した。一方、KOラ島のHS量は野生型よりも増加しており、SDC4以外のコアタンパク質が結合したHSではSDC4をコアタンパク質とするHSのインスリン分泌機能を代償できない可能性が示唆された。STZ投与したICR系統のSDC4KOラ島ではHS分解酵素のヘパラナーゼの発現が上昇しており、ラ島保護作用もあるHSがヘパラナーゼにより分解され、β細胞数が減少したと考えられた。 系統によって表現型に違いがあるものの、マウス生体においてもSDC4が膵β細胞のインスリン分泌や生存に関与しており、SDC4が糖尿病の病態解明や治療の標的分子となりうることが示された。
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